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2006年2月 2日 (木)

字面

 毎月のベルラン通信『佳き響きは食に在り』と、隔月のすき焼今朝通信『汽笛一聲…上氣嫌』を書いてゐますが、活字として殘るものだけに、文字を綴る難しさや日本語の美しさを常に感じてゐます。以前は手書きで、それからワープロで打って切り貼りになり、今ではパソコン上で簡單に書面作りができるのですから、便利な世の中になつたものです。但し、何故か、誤字脱字はディスプレイ上では氣附かず、印刷した途端に目に飛び込んで來るから不思議です。
 可能な限り外來語を使はず、元々ある日本語で書くやうに心掛けてゐます。「バランスの取れた」とは云はずに「釣り合ひの取れた」とか、「メロディー」ぢゃなくて「旋律」とかですね。

 そして、正字舊假名にしてゐるのは、その方が俄然字面が綺麗だからです。元の漢字の意味も解りますし、難しい字には振り假名を振つておけば、誰でも讀めますから。20年ばかり前、歐州で現地の人ばかりと生活してゐた頃日本語の活字に飢ゑてゐて、日本語の本を回し讀みにしたものです。その中で出會ったのが谷崎潤一郎でした。昭和34年發刊の新潮社版「日本文學全集」の内の一冊『細雪』を手にした時は、上下二段で分厚くて、こりゃあたいへんだと思ひましたが、さにあらず、正字舊假名遣ひの、美しい字面に吃驚。美しい日本語で、お見合ひの斷りに候文が使はれてゐたり、ほんの50年前なのに、別世界に感じられたものです。然も、関西辯にも拘はらず、頭にスラスラと入る日本語の字面と抑揚に感銘を受けたものですから、爾來、自分の文章を綴る時は正字舊假名にしました。

 ご存じの通り、『細雪』は京阪神が舞臺で、白系露西亞人とか、隣の獨逸人なんかが出て來て「湯豆腐」と渾名を附けるのです。これは「Ludolf」と云ふ獨逸人の男の子の名前が「湯豆腐」に聞こえるからなのですね。カタカナで「ルドルフ」と書けば「Ludolf」も「Rudolf」もありますが、「湯豆腐」の發音から「Ludolf」だとわかり、文字より先に耳にした名前だから附けられる渾名なのです。確かな實體驗がないとかうは書けません。さすが谷崎! 

 その時手にした『細雪』は今も事務所の手の届くところに置いて有り、時折眺めてゐます。文庫版ですと現代假名遣ひなので、字面の面白さは半減しますが、内容は解り易いかも知れませんね。是非、神田邊りで、正字舊假名本を探してみて下さい。



細雪


Book

細雪


著者:谷崎 潤一郎

販売元:中央公論新社

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コメント

こんばんは。
ブログ開設おめでとうございます。
私は昨日からちょうど、出張で細雪の舞台大阪に来ております。
大阪は初体験で、かの有名なくいだおれ人形など見てきました。
道頓堀界隈の大阪特有の色彩感覚に圧倒されております。

投稿: Tiberius Felix | 2006年2月 2日 (木) 23時37分

 ありがたうございます。まだまだ不慣れなもので試行錯誤の連續ですね。
 東京は「將軍家のお膝元」でしたから、表立って目立ったり、派手を嫌がる傾向がありますが、大阪は全部さらけ出す勢ひがありますね。薄味の料理も大好きです。たまには、文樂を觀に行きたいです。
 

投稿: gramophon | 2006年2月 3日 (金) 17時23分

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