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2006年2月27日 (月)

山猫

 昨年、デジタル処理により往時の美しい映像が蘇つた、ヴィスコンティ監督《山猫》は忘れられない映畫のひとつです。

 1963年にカンヌ國際映畫祭でパルムドールを授賞したこの作品は3時間を越える大作であつた爲、64年の公開當時は英語短縮版で舞踏會の場面が大幅に省略されましたが、81年にオリヂナルの伊太利語完全版が見附かり公開されてゐます。その時も真っ先に岩波ホールへ行きました。確か前年に《ルートヴィヒ 神々の黄昏》完全版が上演され、座り切れず次回上映を3時間もホール外の階段で待つた翌年だつたと思ひます。

 使ひ古された表現ですが、「豪華絢爛」な「時代絵巻」!没落して行く誇り高きシチリア嶋の貴族の憂ひが見事に描かれ、歐州貴族文化の厚みや弊害、伊太利統一戰爭の戰場情景、嘘のない小道具、見事なカメラワーク等、細部まで脳裏に焼き附いて離れませんでした。それから、暫くヴィスコンティが流行り、立て續けに小さな映畫館で公開されたものは、殆ど見に行つたものです。大學卒業後に「歐羅巴で働く」と決心させたのは、この《山猫》だつたのかも知れません。

 19世紀の貴族の屋敷では、ミサを行ふ最中に、男はハンカチを敷いて片膝を附くことを初めて知りました。頬髯(ホホヒゲ)の似合ふ威嚴のあるバート・ランカスター、端役のジュリアーノ・ジェンマが歌を歌つたり、成り上がり者の娘が招かれた食卓で、齒を出して大笑ひをした爲に、誰もが憮然と席を離れてしまふ夕食の情景、瑞々(みずみず)しいアラン・ドロンの碧き瞳、若さと生を象徴するクラウディア・カルディナーレ、この若い二人が古い屋敷の部屋から部屋へ戯れる場面、舞踏會の待合ひ所でソファに飛び跳ねる女の子たちを猿のやうだと莫迦にするサリーナ公爵、大寫しの場面で額から汗の流れ出るところ… 忘れられませんね。

 革命戰爭の最中に例年通り避暑に出掛けた公爵一家を出迎へる町の樂隊が、下手糞乍らも當時流行つてゐたと思はれる、ヴェルディをブンチャカ、ブンチャカ奏でるところは笑へます。その上、ミサの入場曲にもヴェルディが使はれてゐました。舞踏會の場面でも見事な踊りを披露するランカスターとカルディナーレを支へるのは、優雅なヴェルディの旋律であつたと思ひます。

 そして、サリーナ公爵のお洒落なこと。既製服のない當時のこと、自分の體型に合はせて誂へるので、當たり前なのですが仕立てのよい服が、次々出て來ます。狩りに行く時、夜會服、普段着、それぞれの着こなしが何とも言へません。曲馬團(サーカス)出身の肉體派男優のランカスターが誇り高い伊太利貴族を好演してゐたことも特記すべきことでせう。絨毯敷きの部屋の真ん中にバスタブはがあり、石鹸一杯に體を洗いそのままタオルで拭いてしまふなど、我々日本人には信じ難い行爲なのですが、彼等貴族には當然のことだつたのに違ひないのです。

 80年代前半は伊太利なんぞ、そんなに注目もされてゐないどころか、「伊太飯」なんて云ふ言葉すらない時代でした。高校生であり乍ら、かういふ濃厚で重たい作品を好んで見に行くのですから、ませたガキでしたね。ヴィスコンティ映畫にハリウッドにない本物を見た氣がしました。

 横長のワイドスクリーンでDVDも發賣されてゐます。



山猫 イタリア語・完全復元版


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