78 r.p.m.
蓄音機のSP盤はスタンダード・プレイングまたはショート・プレイングの略で1分間に78回轉(revolution per minute)します。40代以上の皆さんがその昔、慣れ親しんだシングル・レコード(ドーナツ盤)は45回轉、LPは33と1/3回轉ですから、それに比べると凄く速く回ります。このLPが何の略だか、もうおわかりですね。スタンダードに對して長く掛けられるのが賣りで、ロング・プレイングと名附けられたのです。
HMV194にはちゃんと速度を知らせる小窓が有り、大きく真ん中に「78」の數字が見えます。螺子(ネジ)を左に回せば「速く」、右へ回せば「遅く」調整ができます。長い間調整をしないと78を指してゐても、正しい回轉速度ではないこともあります。
そこで、この速度調整に用ゐられるのがストロボスコープ(回轉運動觀測器)です。ラッパーの兄ちゃんたちが、ウハウハと速度を變へるあのレコード・プレイヤーの回轉臺の側面に附いてゐる白黒のイボイボがそれですね。蓄音機であれば、ストロボスコープをレコードの代はりに置き、回してみて78回轉であれば、この白黒が一定して安定して見えます。速度が違ふと黒い模様がどんどん動いて行つてしまふのです。
このストロボスコープはベルラン専用に複寫してロゴを入れたものですが、本來なら電球(東京なら50ヘルツ)を近附けて見られるやうになつてゐます。もともと、裏面には60ヘルツの白黒斑(まだら)模様が描かれてゐました。
20世紀初頭、SP盤が作られ始めた頃は78回轉と決まつて居らず、80であつたりしたのです。1926年に録音されたメンゲルベルク指揮、アムステルダム・コンセルトヘボウ管絃樂團によるマーラーの〈アダージェット〉(Columbia L1798)は「80回轉」です。正しい速度で聽くには、ストロボスコープが欠かせません。ところが、この抒情的な名曲は幾度も再販され、仕舞ひにはラベルから「80回轉」の文字も消えてしまひました。この一曲だけの爲に速度調整をするのが面倒ですし、多少遅くともゆったりと流れる曲調に變はりはなく、氣にしなくなつたのでせう。かく言ふ私も78回轉で聽いてゐるので、たまには本來の姿で聽かねばと思ふのでした。
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