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2006年2月 8日 (水)

伯林フィルに思ふ

 もう10年以上前のことですが、アバド&伯林フィルの來日公演でいたく感激して漢文調の和漢混淆讀み下し文を綴つたことがあります。その折、これを讀んだ方がきちんと添削もして下さり、文法的な間違ひや、用語の遣ひ方も直して、完成したものです。アバドの續きとして、殆ど手直しせずに、此処に掲載しませう。

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 ほんたうに久し振りの日本での演奏會。西暦1994年10月15日、サントリーホールに於けるマーラー作曲、交響曲第九番。夕刻より風強く、撫で附けたる髪亂るることしきり。「入場券求ム」と云ふ札持ちたる若人多く、而もS席希望と云ふ厚かましさ。盲目的ファンと見受けられ、同人知人等開場時刻を頻りに氣にしたる。餘券あらざりし故か。數年に一度の祭ごと宜しく盛装したる男女、光線により色變はる噴水など見、寒くなりつつある廣場にて時を待つ。

 扉開くと同じうして機械仕掛けの時計「威風堂々」を演奏。如何にも盛り上がらんと云ふ行進曲に氣分高揚、これより始まらんとする演奏會に期待膨らむ。入場時、筑紫哲也、吉田秀和夫妻等著名人多數發見、我が席S(弐萬五千圓)なれど平戸間、正面右也。開演時間に随分と早くから座れり邦人多く、歐州なればぎりぎりまでゼクト等飲みしところ、矢張り東京の演奏會と云ふもの。それでも會場にはサントリー社製品並び樂しむ人もあり。

 早くよりハープ演奏者音合はせ行ふ。本番前樂屋にて緊張したる學生の頃を思ひ出し苦笑す。照明暗轉、舞臺光明、觀衆の拍手に伴ひ入場したる伯林フィルの面々、知る顔多くフィルハーモニー(ホール)での演奏會を思ひ出す。口を拭ふ癖抜けぬホルン獨奏者ザイフェルト、我こそはと歌ふオーボエ獨奏者シェレムベルガー、86年入團の提琴の貴公子(名は失念)、齢を取りたるベテラン諸氏。金子(キンス)に餘裕なき頃にて嚴冬零下20度の戸外にて當日賣りを並びて買ふこと屡々ありき。情熱あらばこそ也。ましてや樂屋へまで押し掛け同胞安永透氏(コンツェルトマイスター)に挨拶し、指揮者の實筆著名(サイン)を多々貰ふ。初めて聽きたる時も同じ指揮者アバド故、思ひ入れ多き管絃樂團也。

 曲は作曲者マーラーの死意識したる最晩年、調性音樂の崩壊しつゝある、情熱と矛盾を含む壮大な規模なれば、樂團員多く舞臺狭し。鳴り出したる音、將に響き渡らん。壮快なテムポ運び、變幻自在なる音色、爆裂音から各樂器の名人藝、フルトヴェングラーまでの傳統復歸せん。唯ひたすら美しきカラヤン節とは違ひ、多くの表現に幅あり、既に就任數年にて指揮者アバドと樂團員たちに信頼關係築き上げられたること明白也。惜しむらくは會場の響き不足なれば、フィルハーモニーの響きに届かざり。今現在知り得る東京での最高のマーラー演奏として記録さるべし稀有の演奏。

 正に絶品と云ふはこのこと也。特記すべき第四樂章、冒頭の厚き絃樂器醸し出したる壮大なスケール、恥ずかしくも目頭熱く、壁在りし日の伯林生活浮き上がり、また今此處に存在する喜び、涙となりて溢れん。最終部、今まで聽くこと能はぬ弱音、而もソロにあらず、合奏にて彈き出すこと、驚愕に値す。曲終はりしも演奏者動かず、數分の間沈黙の餘韻を樂しむ。唯阿呆なる觀客の一人、焦りて拍手せんとすれど、誰一人として追随する者なく事なきを得、日本人のマナー向上したること嬉しく思ふ。如何にしてかう云ふ音を出したる哉、音樂とは無音より無音に至るまでを云ふことを改めて感じ入り、期待以上の演奏に滿足至極。會場を後にしても餘韻長く、感動収まらず。腹空けども胸一杯にて、香り高き珈琲を口にするが精一杯。斯のやうな機會を得られんこと、感謝の氣持ち一杯にて何も欲するものなし。

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これをお讀み頂く諸氏に於いては、ご理解頂けるものと思ひます。



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