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2006年3月20日 (月)

蒐集癖

 普段、平日の夜は仕事ですから、月一回でも演奏會に行ければよい方ですが、歐州時代は殆ど休みの度にオペラか管絃樂を聽きに行つたものです。素晴らしい演奏を聽くと、それだけでは物足りなくて、何か特別な記憶に殘ることをしてみたくなるものです。さう考へると自然と足は樂屋口へと向いてしまひますが、既に隠し(ポケット)にはサインペンが忍ばせてあります。

 初めて行く演奏會場でも、場數を踏んだだけ鼻が利くのか、袖口や裏方の樂屋出入口がわかるものです。學生時代は部活で喇叭を吹いてをりましたから、他大學から招待券がよく回つて來ました。それを、暇な連中と聽きに行くのですが、知り合ひが居れば、ずかずか舞臺裏まで押し掛けて、出來榮へを賞賛したり、指揮者に挨拶したり、さも関係者の振りをしたものです。自分が演奏した際も、友人が訪ねてくれるのは嬉しいものでした。上氣し昂奮したまま感激露はにお喋りしたり、失敗して穴にも入りたくなる氣持ちを抑えて作り笑ひで迎へたり、樂しい思ひ出です。それ故、専門家の演奏なら尚更、演奏家や指揮者の實筆署名(サイン)を頂きたくなるのです。

 日本のオケ(管絃樂團)の場合は、樂屋口で待つか、控へ室の前まで行ければ、指揮者から直接、プログラムに實筆署名が頂けます。來日オケの場合は、樂屋口で辛抱強く待たねばなりません。不機嫌な指揮者はさっさと待たせてゐるハイヤーへ直行して、無愛想でとりつく嶋もありません。大勢待つてゐれば、我先にとならず案外良心的に列を作りますが、餘り強引では厭がられ、かと云つて引つ込み思案では頂けませんので、その邊りの呼吸が難しいですね。また、これからの新人や、餘り人氣のない演奏家や、機嫌のよい指揮者なら、署名後、必ずこちらの目を見て返してくれます。

 オペラの場合は、化粧を落とした歌手の顔を判別するのが結構難しいですね。舞臺上で大きき見える人が、小柄であつたり、若々しく見えたのが實は白髪のお婆さんであつたりして愕然としますが、またその落差も面白いものです。もみくちゃにされても、終始にこやかに署名して下さる方は、當日の演奏が不出來でも、ファンの心をがっちりと掴み、今日はたまたま調子が出なかつたのだらうと、贔屓になります。

Photo_6 今週はそんな樂屋出口の顛末を書きませう。これは、1989(平成元)年9月19日、伯林でシューベルトの《冬の旅》を聽いた時のものです。ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br.)と伴奏がアルフレッド・ブレンデル(Pf.)。長身で知的な二人の心温まる調和が忘れられません。

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