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2006年3月10日 (金)

指揮者

Nikisch02 往年の指揮者も素敵な髭の方が大勢をります。録音の殘る古い方から順に擧げるとすれば、洪牙利(ハンガリー)出身のアルトゥール・ニキッシュ(1855-1922)が筆頭でせう。口髭に顎鬚が立派です。身のこなしが素敵で當時のアイドルのやうな存在でしたから、その視線に卒倒する女性も現れたとか。今で云ふとGacktのやうな存在でせうか。
 ニキッシュが鬼籍に入つた翌年から24年に掛けて、伯林に留學してゐた指揮者、近衛秀麿は著作『シェーネベルク日記』 1930(昭和5)年銀座第書院發行 の中で

 「又僕は音樂者達が故人ニキッシュを追賞して語り合ふのを聞く毎に多くの性行上の非難あるにも拘らず如何に彼が人間として愛すべき又魅力に富んだ人であつたかを想ひ浮べる。」

と述べ、女たらし振りを批判し乍らも、巧に管絃樂團をまとめた技倆の高さを褒め稱へてゐます。彼の指揮した録音は、マイクロフォンを使はない喇叭(ラッパ)吹き込みだけですが、幾枚か殘されてゐます。生憎、貴重盤ですので手元には〈運命〉第1樂章冒頭部分、1枚目のSP兩面盤(Monarch Record Gramophone 040784/85)しかありません。か細い音の中から、どうしてどうして、とても浪漫的な素敵な演奏が聽こえて來ます。

T1 そして次に擧げるとすれば、熱し易い性格で指導に力の入り過ぎるアルトゥーロ・トスカニーニ(1867-1957)でせうか。禿げ頭に口髭、それに蝶ネクタイがよく似合ひます。併し、眼光鋭く、偏屈親父の顔が出てゐますね。
 學生時代に初めて買つたSP盤が紐育フィルとトスカニーニのベートーヴェンの7番(Nippon Victor JD819/23)でした。自宅に所謂電蓄があり、33回轉、45回轉の他に78回轉のダイヤルがあつて、カートリッジが引繰り返へり、裏替へすとSP用の針がちゃんと附いてゐました。その78回轉はどんな音がするのか、子供乍らにずっと氣になつてゐて、是非聽いてみたいと思つてゐました。勿論、SP盤なんか既に無く、神保町へ探しに行きました。單純に速度ではカラヤンの方が速かつたのですが、ちゃんと音が刻まれてゐることに驚き、片面が短いものの生き生きとした音樂が聞こえ、SP盤の魅力にはまつてしまつたのです。

 さうして、大型蓄音機HMV194型を手に入れて最初に掛けたのも、トスカニーニのSP盤でした。それは、NBC響と1951年に入れた《ローエングリン》第1幕への前奏曲(HMV DB21574)でした。冒頭から絃樂器の弱音が續くこの曲は、卓上型のコロムビア蓄音機では雑音の方が多くて、全く樂しめませんでしたから、HMVの真價を問ふのに丁度良かつたのです。ワーグナーが天井の世界を描くのに、第1ヴァイオリンを分けて、極小の音を重ねて美しさを出した、その素晴らしい響きが再現されて鳴り渡り、大いに滿足しました。

 他には大醜聞を招いたストラヴンスキーの〈春の祭典〉初演をしたピエール・モントー(1875-1964)や、英國で幾つもの管絃樂團を設立した變人トーマス・ビーチャム(1879-1961)、瑞西(スイス)で活躍したエルネスト・アンセルメ(1883-1969)だとか居りますが、戰後はぐっと減つてしまひ、唯一思ひ浮かべるのは派手な衣裳と大きな黒縁眼鏡の山本直純(1932-2002)だけでせうか。彼は〈男はつらいよ〉や童謡〈一年生になつたら〉〈歌へバンバン〉〈こぶたぬきつねこ〉等、知らぬ間に耳に馴染んだ多くの名作も手掛けてゐました。

 かうしてみると、口髭や顎鬚の立派な人程、素晴らしい仕事をされてゐますね。私も負けてはゐられません。 

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