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2006年3月15日 (水)

ムッシュ

 ベルランの「ツェッペリン伯號」に関した再現料理で一番盛り上がつたのは、1929(昭和4)年8月20日、滯在先の帝國ホテルでの歡迎晩餐會の再現でせう。献立表自體は國内に保管されてをらず、獨逸のツェッペリン博物館併設の圖書館探し出しました。現首相の祖父で入れ墨のあつた逓信大臣小泉逓信大臣、財部(たからべ)海軍大臣、宇垣陸軍大臣の主催です。運輸、郵政が一緒の逓信省の時代です。それにまだ、飛行船は軍事に轉用できると考へられてをり、寄港地も霞ヶ浦海軍航空隊基地でした。それ故、格納庫に居る間に綿密な構造調査もされてゐます。噂に聞く最先端技術が其処にあつたのですからね。

1 冷製キャビア、冷製コンソメ、殻附オマール海老 カルディナール・ソース、牛フィレのステーキ ロッシーニ風、氷菓 シャムパーニュ風、冷製鶏肉 ムース添へ、アイスクリーム 富士山型、果實、珈琲とその頃望み得る最高級の佛蘭西料理です。もてなされた船長以下乘客たちはさぞかし喜んだことでせう。ステーキの後にもう一品肉料理が出て來るのは、傳統的な食事形式だからですね。また、宴會料理ですから、一皿づつ運ばれるのではなく、大皿で持つて來られたものを取り分ける形式でした。

 手に入り難い筈の食材は如何にして手に入れたのか。キャビアは船員たちが買つてくれと持つて來とたとか、伊勢海老ではなくオマール海老も使ひ、黒毛和牛が喜ばれ、名物の富士山アイスが好評で、果物は殆どメロンと云ふ決まりであつたとか、詳しい裏方事情も知ることができました。それは故村上信夫、帝國ホテル料理顧問に直接尋ねることができたからです。(撮影:山家學)

 そこで私共では、2003(平成15)年の11月20日に、村上信夫氏をゲストとしてお招きし、盛大に再現料理食味會を開きました。勿論、私も燕尾服でお出迎へです。合はせるワインはその時手に入る國産ワインの粋を集めました。キザン・スパークリング・トラディショナル・ブリュット、02年産ルバイヤート〈シャルドネ〉金ラベル「舊屋敷畑収穫」、1999年産シャトー・メルシャン〈長野メルロー〉、岩の原「深雪花」、1994年産サッポロ・グランポレール・北海道餘市貴腐〈ケルナー〉です。

 お話し上手なムッシュは當時7歳の子供でしたが、實際に千住にお住まいで「銀色の葉巻」が海軍の複葉機十三式艦上攻撃機の先導でゆっくり飛び去る姿を物干し臺に寝轉がつて見物したことや、先輩から機内食を作る苦勞話しを聞かされたことなど、昨日のやうにお話し下さいました。長年の立ち仕事により膝を惡くされてをりましたが、80歳を過ぎたとは云へ料理もワインの一滴も殘さず、綺麗に召し上がり「何時でも呼んで下さい。近いですから、すぐにまた來ますよ」とも言つて下さいました。

 忘れられないのは、まづ調理場に挨拶に來られ、食後には、一皿一皿調理法を解説してきちんと評價して下さり、歸へる前にもシェフを始め從業員に勞をねぎらふ言葉を掛けて下さいました。同業者だからと云つて、なかなかできないことではありません。これには感動しました。優しいお言葉に足が震えたものです。飛行船の結んだ大きな思ひ出です。

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