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2006年4月 6日 (木)

遺作

Bruckner 19世紀も後半になると、垣根を越えた作品や巨大化した交響曲が生まれます。その點で云へば、アントン・ブルックナーは長大で、意外に單純な構造が敬虔なカトリック教徒らしく、オルガン奏者の経験が生かされた伽藍のやうな見事な音の構築物がよく、森を彷徨うやうにして始まります。興味のない人にはどの曲も似たり寄ったりでひたすら長く、延々と續いて終はりが見えず疲れるだけなのでせう。併し、一度この魔力に陥るとワーグナー同様、何処までも好きになるやうです。それに金管奏者は活躍の場が多いので、ひたすら休符が續くよりパッパラ吹けるので嬉しいものです。

 ブルックナーはこの交響曲第9番ニ短調を1887(明治20)年9月21日に書き始めたのですが、8番に對するヘルマン・レヴィ(指揮者)の否定的な意見に惑はされて改訂を始めました。それは8番だけに止まらず、1番、3番、4番にまで及び、9番の完成が伸び伸びになつてしまひます。1894(明治27)年に入ると、體力の衰へも著しく、毎日寝臺の上で筆を持ち書き續けました。そして、1896(明治29)年10月11日の午後3時に亡くなる日の午前中まで病床で第4楽章に取り組んでゐたと云はれてゐます。それ故、途中までしか草稿のない4樂章の代はりに《テ・デウム》を終樂章の代用としても良いと生前語つてゐます。

 通常は3樂章のアダージョまでで終はりです。第1樂章は「原始霧」とよく云はれるブルックナーらしい絃樂器のトレモロから始まり、壮大な響きが導かれます。第2樂章は以前(1982年の夏頃封切られた)邦畫の主題歌に使はれてゐました。スケルツォは荒々しいリズムで刻まれ、ガンガン鳴り響きます。そして、第3樂章は天上の世界を思はせる彼岸へ淨化して行くやうな、美しく荘嚴な感じが素敵です。強音(フォルテ)で始まる提琴(ヴァイオリン)のG線の主題は、聽き手をぐいっと引き込みますが、ブルックナーが意圖したものはさうでなくて、その後を書き續けてゐたのだからと考へ、補完復元する人も出て來ました。
 1934(昭和9)年にオーレルが終樂章の遺稿を整理して發表してから、これを完成させやうと多くの人が試みてゐます。92(平成4)年にサマーレ、マッツーカ、ジョン・A・フィリップの共同作業で復元完成されたものは、オーレル以降に發見された素描(スケッチ)も加へて練られてゐるので評判はそこそこで、アイヒホルン指揮、リンツ・ブルックナー管絃樂團により録音されてゐます。また、ニコラウス・アーノンクールは維納フィルを使ひ、4樂章の斷片を解説を交えて演奏する試みをしてゐます。

クナッパーツブッシュの怪演も好きですが、今のお氣に入りは1998(平成10)年9月の伯林藝術週間でのギュンター・ヴァント指揮、伯林フィルとの實況録音です。ゆったりとしたテムポがだれることなく凝縮し、透明感のあるスケールの大きい演奏となつて、會場全體に響き渡り、音が空間を埋め尽くすやうなところに幸福感を得ます。第二樂章の三連符の刻みも魔神の軍隊が攻めて來るやうな迫力があり、第三樂章の深淵な森の底から沸き上がる泉やうな澄んだ佇まひが素晴らしく、何度聽きても飽きません。
Bruckners9  SP盤ではハウスエッガー指揮、ミュンヘン・フィルの1938年録音(Victor 15784/90)が手元にありますが、こちらはまだ聽いてゐません。


Music

ブルックナー:交響曲第9番


アーティスト:アイヒホルン(クルト)

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ブルックナー:交響曲第9番


Music

ブルックナー:交響曲第9番


アーティスト:アーノンクール(ニコラウス)

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ブルックナー:交響曲第9番


Music

ブルックナー:交響曲第9番


アーティスト:ヴァント(ギュンター)

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