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2006年4月 7日 (金)

9番の迷信

Mahler グスタフ・マーラーは諸先輩の作曲家が交響曲を9番までしか殘してゐないことが多く、自分も9番を書いた途端に死んでしまふのではないかと危惧してゐました。確かに、ベートーヴェン、シューベルト、ドヴォルザークにブルックナーは9番までしか書いてゐませんが、ハイドン(104番)やモーツァルト(41番)は多産でしたし、マーラー以降のショスタコーヴィッチ(15番)だけ多く、シベリウス(7番)、プロコフィエフ(7番)、ニールセン(6番)は9番まで書いてゐませんので、この説は全く當て嵌まりません。併し、マーラーは真劍で、9番目の聲樂附き交響曲を《大地の歌》と名附けて敢へて9番を避ける程でした。
 《大地の歌》を書き始めた1907(明治40)年には愛娘マリアを亡くし、それまで水泳やスキーまで樂しんでゐたマーラー本人も心臓病を宣告され、突然死と隣合はせになつたからでせう。その年の暮れには維納宮廷歌劇場の音樂監督を辞め、紐育(ニューヨーク)でメトロポリタン歌劇場の指揮者として、又紐育フィルの指揮者として過ごしますが、夏は歐州に戻り、恒例のトブラッハの別荘で作曲に勤しんだのです。そこで《大地の歌》や9番、そして未完の10番が書かれました。交響曲第9番ニ長調は09(明治42)年から書き始め、翌年の4月1日に紐育で完成させてゐます。
 そして第10番に取りかかりますが、こちらは未完に終はつてゐます。圖らずも迷信通りになつてしまつたのは皮肉なものです。

 1911(明治44)年、51歳の誕生日を前にしてこの世を去つたマーラーは實際9番の演奏を聽くことは叶ひませんでした。調性音樂を最大限に廣げ、瓦解する寸前まで進めたこの作品は「死」が主題で、事實、終樂章は「死ぬやうに」と云ふ注釈が附いてゐます。
 初めて聽いたのは、大學4年のことで一級下の後輩が「青少年音樂日本聯合(JMJ)」の審査(オーディション)に通り、ジュネス交響樂團でマーラーの9番をやるので事前に勉強しろと、カセットと小型総譜(ポケット・スコア)を渡されたからでした。このオケは嚴しい審査があつて優秀な學生や個人が集まり、専門家の指揮で、NHKホールを舞臺に彈けるので人氣がありましたが、2001(平成13)年に活動を休止してゐます(少子化の爲?)。その時は提琴の部分譜面(パート譜)を製本したり、総譜を勉強したり、萬全の體勢で本番を聽きに行きましたが、正直何だかよくわかりませんでした。混沌としてるだけで、全然耳に馴染んで來ません。勿論、これは指揮者の井上道義さんの所爲ではありません。まだ、マーラーが染み込んでゐなかつたのです。

 併し、これが切掛となつて、マーラーばかり聽くやうになり、次第にまた嵌つて行くのでした。當時は廉價盤のLPがぞろぞろ出てゐましたから、學生でも氣輕にお小遣ひで買へました。混沌として、何でも詰まつてゐるところが、現代人の惱みを代辯してゐるやうにも感じ、伯林へ行つてからは、以前書いたやうに、伯林フィルで幾度も聽く機會も得て、ますます好きになりました。一流の音樂家による生演奏は強烈な印象を刻み込んでゐます。特にこの9番の思ひ入れは激しいと云へませう。

 さて、日本で聽いたアバド指揮、伯林フィルの演奏が忘れられないと書きました(2月8日)が、同じ組み合はせの實況録音が現在聽ける最高の演奏のひとつだと思ひます。
Mahlers9 併し、何と言はうと一番のお薦めはブルーノ・ワルター指揮、維納フィルによる1938年1月16日のSP盤(HMV DB3613/22)です。獨逸國家社会主義勞働黨(ナチス)により墺地利が併合される直前の演奏です。ユダヤ人ワルター告別演奏會であると、ワルター自身も樂團員も、お客さんも知つてゐて、もう二度と聽くことができなくなると心の中で思ひ描いて會場に向かつたことでせう。さう云ふ極限状態での緊迫した演奏が、鬼氣迫る迫力を生み、死の恐怖と現世への憧れが凝縮してゐます。そんな前置きを知らずとも、心に訴へ掛ける力に滿ちてゐると思ひます。CD復刻盤では迫力に欠けますが、SPならではの力強さに溢れたこの10枚組は私の寶です。




マーラー:交響曲第9番


Music

マーラー:交響曲第9番


アーティスト:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 アバド(クラウディオ)

販売元:ユニバーサルクラシック

発売日:2002/05/22

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