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2006年5月15日 (月)

ツィゴイネルワイゼン

 内田百閒の小説に『サラサーテの盤』と云ふ短篇があります。サラサーテ自ら1904(明治37)年に吹き込んだ名曲「ツィゴイネルワイゼン」の途中に、うっかり何か喋つてしまつたものが挿入された有名なレコードに就いて書かれたものです。以前、そのレコードをお借りして聞いたことがあるのですが(Nippon Victor E329)、矢張り「パラピリホレヘレ」位にしか聞こえず、何を言つてゐるのか全くわかりません。フルトヴェングラーのベートーヴェンの7番LP盤にも女性の聲が入つてゐたり、滅多にないだけにとても記憶に殘るものとなりますね。

 この百閒の『サラサーテの盤』を元に、田中陽造が脚色し、鈴木清順がメガホンを取つた映畫《ツィゴイネルワイゼン》があります。1980(昭和55)年にロードショウされた摩訶不思議な映像美を誇る清順らしい映畫です。高校生なのに、切符買つてわざわざ見に行つたのは、名曲の名に惹かれ、一寸興味のある大正時代が垣間見たかつたに他なりませんが、ちんぷんかんぷんなのが正直な感想でした。

 物語は、大學の獨逸語教授、青地(藤田敏八)と元同僚の友人、中砂(原田芳雄)が旅先で、藝者、小稲(大谷直子)に會ひ、一年後、中砂から結婚したと云ふ知らせを受けた青地は、その妻が小稲にそっくりなので吃驚します。本人曰く似たのを探したのだと笑ひ、書斎でサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」をヴィクターの卓上蓄音機で二人は聽きます。そして、中砂に娘の豐子が生まれますが、暫くして中砂は死んでしまひます。數年後、青地の家に豐子を連れた小稲が夕闇と共に現れて、中砂が貸したサラサーテのSP盤を返して欲しいと言ひ出します。返した筈だと思つてゐた青地は手元にないと思つて追ひ返すものの、あったことに氣附き、慌てて後を追ふのですが…。

 それまでの、《けんかえれじい》《刺青一代》など清順の代表作すら見てをらず、突然、妖艶な世界へ紛れ込んでしまひ、迷子になりました。青地は洋館に住み、始終洋風なのに對し、中砂は暗い日本家屋で常々和服です。鎌倉の切り通しを境に陰と陽の二人の世界が對峙してゐるやうです。どうかすると「骨がピンクになる」なんて話しを聞いた青地は中砂の骨壺に手を掛けて中を見ようとするが、ふと我に返つて止めるたりします。コンニャクをちぎり過ぎて、山になる場面だとか、場面場面をかなり鮮烈に覺へてゐますが、頭の中で繋がつてゐません。

 最初、濱に遺體が揚がつたところで、地元の警察に青地が名刺を見せるのですが、「獨逸語」が讀めず「ドイツ語」とはっきり言ふのを特によく覺へてゐます。それで、ドイツを獨逸と書くのだと知りました。また、最後豐子の足跡に六文錢があり、死者だと知っておののく青地に、「參りませう」と聲を掛ける豐子。 斷片の記憶だけでは何だかよくわかりませんね。

 キネマ旬報第1位、伯林國際映畫祭では審査員特別賞を獲得したり、日本の評價も海外の評價も高いのですが、理解した人はどれだけ居たのか。今でも不思議に思ひます。



ツィゴイネルワイゼン


DVD

ツィゴイネルワイゼン


販売元:ジェネオン エンタテインメント

発売日:2001/09/21

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