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2006年6月 5日 (月)

頭で味はふ

 今週は最近讀んだ本のご紹介でもしませう。仕事柄、食べ物関係や料理の歴史の本や、音樂家の自傳やレコードの歴史、飛行船の本、文語體の本なんかをよく讀みます。他に氣晴らしにミステリーや探偵、それにホラー小説も大好きです。

 「おいしい」とは何か?本來口の中で、舌の器官「味蕾」で得られた情報が腦に送られて、初めておいしさを感じる筈なのですが、現在は食べる前の情報に左右されてゐます。伏木亨著 『人間は脳で食べている』 ちくま新書 には、おいしさを科學で説明しようと云ふ試みがされ、既存學問のひとつでは解明できませんから、幾つかの構成要素に分解して考へてゐます。それが、身近な話題なだけにフムフムと納得することしきりです。

 まづ、「靴のまま寝臺に倒れ込む」「洗面槽に水を溜めて顔を洗ふ」「鍋で下着を洗ふ」「實驗用ビーカーでお茶を飲む」等「清潔」の感じ方は國や地域により違ひ、科學だけでは割り切れない人間くさい要因が色々隠されてゐると、知ることとなります。
 例へば、亞米利加からの牛肉の輸入再開問題にも触れてゐます。日本人はBSE全頭檢査と云ふ事實を基に情緒的安心感を構築してゐる爲、亞米利加流の科學的根拠に基づく略式檢査では、日本人の情緒として傷附くので、消費者は大きな聲で「NO!」を叫ぶのですね。日本人の清淨感は科學では割り切れないものです。
 7月に獨逸の飛行船LZ129「ヒンデンブルク號」の料理を再現するのですが、私の持つてゐる當時のオリヂナルメニュの夕食には、「Porterhouse Steak」と云ふのが出て來ます。これは所謂「Tボーンステーキ」ですから、簡單に再現できるものと思つて肉屋に問ひ合はせたら「BSEの危險部位の背骨附の肉は賣れません」と云ふのです。單に亞米利加産の牛肉に限らず、安全を目指す觀點から國産和牛でもこの状態に、嬉し悲し。

 自分の舌で判斷できないので、表示に頼り切つて食材管理をするしかありません。テレビで氾濫するグルメ番組も、他人の評價を受け入れる下地があるからで、プロが奨める味だとかに弱いのです。まづ、「おいしさ」を4つに分類し、具体的に腦のどの部分で感じてゐるか、を解り易く話してくれます。詳しい内容は是非、お買ひ求めになつて讀まれることを強く薦めます。

 そして最後に、生きるか死ぬかの嚴しい環境と違ひ、現代は快感や刺戟を求めることが優先されて、生命維持とは関係のない方向へ進んでゐると著者は警告してゐます。快樂に齒止めがありませんからね、人類の危機なのかも知れません。



人間は脳で食べている


Book

人間は脳で食べている


著者:伏木 亨

販売元:筑摩書房

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