« 食品添加物 | トップページ | 死の形 »

2006年6月 7日 (水)

溢れる感情

 自由に生きることを問ふ不法占拠の若者を描いた『ベルリン物語』、そして壁崩壊後の『新・ベルリン物語』を書き、常に相手を同じ人として捉へ、同じ目線で話すことのできる人、橋口譲二さんに注目してゐました。丁度、橋口さんが伯林に住んでゐた頃、私も前後して伯林で働いてゐましたので、どんな人にも優しい視線を投げかける人なんだと吃驚しました。無人アパートを不法占拠したパンクのお兄ちゃんたちに聲を掛けるなど、普通に生活してゐる者にはとても考へられない行爲でしたが、語り口は淡々としてゐますが、暖かいものに包まれてゐます。ああ、この場所知つてゐると云ふ自分も歩いた街角が出て來るとワクワクしたものです。
 寫眞集『BERLIN』も壁崩壊前の記録寫眞として、廢墟や空き地、練炭の焼ける匂ひ、冬の伯林の空氣が白黒寫眞から強烈な記憶として蘇つて來ます。

 それ以前にも、彼方此方の17歳をそれぞれを描いた寫眞集『17歳』、や暴走族を正面から撮つたものなど、市井の人を撮影して、社會問題を浮かび擧げる名手でした。ふと本屋で橋口作品を見掛けて手に取つたのが、橋口譲二・星野博美著 『対話の教室 あなたは今、どこにいますか?』 平凡社 でした。

 アシスタントとして働いた星野博美さんとの共著ですが、スライドと朗讀と云ふ「スチルムービー」を行ひ、それと同時に參加者が自主的な活動方式で行ふ講習會(ワークショップ)の記録です。それも全く同じ内容を印度と日本で行ひ、參加者たちの反應の違ひが如實に出て來て、副題の通り各々が「あなたは今、どこにいますか?」と問ひ掛け、人間が生きようとする感情を記録してゐます。

 最初このワークショップの意味が解らず、思はず辭書を引いてやっと解つた次第です。恥ずかしい。カタカナに滅法弱いですね。同じ寫眞機と同じ枚數のフヰルムを渡し、好き好きに歩いて撮つて貰ひ、その中で1枚を選び最終的に、參加者全員が1作品を人前で發表するのですが、心に描くこと、考へも全く違ふのですから被寫體も違へば、撮り方も全然違ひ、出鱈目の方向に向かつてゐるやうでゐて、自然と自分の内面と向き合ふのが不思議でした。そして話し合ふことで自分を發見する素晴らしさがあるのです。

 揺れ動く感情のまま、寫眞を撮ることも大事なのですね。旅先には必ず寫眞機を持つて行きますが、結構、格好良く寫るやうに意識し過ぎたり、考へ過ぎて出来上がつてみると詰まらないものばかりのことがあります。餘計な智惠の附いた大人だからこそ、素直に自分の感情を寫眞にぶつけてみたい。今度はいい寫眞になることを期待せずに、どんどん撮つてみませうか。



対話の教室―あなたは今、どこにいますか?


Book

対話の教室―あなたは今、どこにいますか?


著者:橋口 譲二,星野 博美

販売元:平凡社

Amazon.co.jpで詳細を確認する


Book

ベルリン物語―Tokyoの次の手がかり


著者:橋口 譲二

販売元:情報センター出版局

Amazon.co.jpで詳細を確認する


Book

新・ベルリン物語―消えた国境と新しい「壁」〈上〉


著者:橋口 譲二

販売元:情報センター出版局

Amazon.co.jpで詳細を確認する


Book

新ベルリン物語 下 ― 勝手な時代と彼らの「選択」


著者:橋口 譲二

販売元:情報センター出版局

Amazon.co.jpで詳細を確認する


|

« 食品添加物 | トップページ | 死の形 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。