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2006年7月 5日 (水)

魂を抜かれる

Aida1902 歌劇王エンリコ・カルーソーの場合、全曲CDに全集として復刻され、今でも親しまれてゐます。特にレオンカヴァルロの《道化師》より〈衣装を附けろ〉は彼が規範となり、如何にカルーソーを越えられるかが現在でも問はれ、貧弱な筈のSP盤にも拘はらず、これを越える生演奏に出遇つたことがありません。

 兎に角、蝋管の時代から厖大な量を吹き込んでゐますから、二束三文の擦り切れたレコードから、珍品レコードまで色々あります。収集家にとつては選擇肢が廣くせめて一枚は持つてゐたい歌手です。このレコードはグラモフォン社初期の、タイプライターも製造してゐた頃のもので、犬印ではなく天使印です。曲はヴェルディの歌劇《アイーダ》より〈淨きアイーダ〉です。レコード番號GC5239がレーベルに、盤面上には52369XVI、マトリックス番號の2873bが盤に刻印されてゐます。この羅馬(ローマ)數字で表された16はスタンパー(金型原盤)番號と云はれるものです。

Caruso 蝋原盤からマスター盤が作られ、この1枚のマスター盤から5~6枚の母型が取れます。そして1枚の母型から更に10枚のスタンパーが取られ、鍍金(メッキ)を施して強度を上げたスタンパーから凡そ1,000枚のレコード盤がプレスされます。スタンパー16番と云ふことは既に16,000枚は賣られたことになり、グラモフォン社にとつて如何に弗箱であつたことがわかります。更に賣れると既存のスタンパーでは足りませんので、スタンパーを元にして母型を作り「逆マザー」と呼ばれた複製母型を元にして、またプレスして行きます。併し、當然音は劣化して行きますから、古い盤の場合このスタンパーにも注目する必要があるのです。この吹込はHMV盤としては賣られてゐませんので、もしも状態のよいスタンパーIでも見附けたら珍品だと云へませう。

Aidarueckseite マトリックス番號の最後に附いてゐるアルファベットは録音者フレッド・W・ガイスバーグが携はつた証です。彼は録音機械を携へて世界中を回り、珍しい音樂を収録して行きました。7吋盤にはa、10吋盤にはb、12吋盤にはcが附けられ、區別してゐるのですね。
 1902(明治35)年4月11日、ミラノの「グランド・ホテル」306號室で、伴奏者サルヴァトーレ・コットーネの洋琴(ピアノ)でこのレコードは吹き込まれました。オリヂナルは71.29 rpmと通常の1分間に78回轉ではありません。大きな喇叭の前でカルーソーは魂が捕られないやうに十字を切つてから歌つたと云はれてゐます。寫眞と同じく生き寫しの吹込みも恐ろしい惡魔の仕業で魂を捕られると信じられてゐた頃の話しです。勿論、まだ片面盤ですから、裏には「天使印」しかありません。
Carusobook
 カルーソーの場合は研究が進み、レコード番號表、マトリック番號、録音年、伴奏者、寸評等色々あり、整理するのに非常に役立ちます。ネット上の古本屋で最も代表的な本『the recordings of Enrico Caruso』は見掛けます。

スタンパーに就いて

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