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2006年7月 4日 (火)

録音年

7inch 戰後の録音であれば、大抵のものはLPやCDに復刻され、細かい情報が記されてゐるので問題ありませんが、戰前の喇叭吹き込み盤になると何時頃のものか全くわかりません。ましてや、一世を風靡したかも知れない音樂家でも100年もたつと忘れられてゐる方が殆どです。それでも、演奏が良ければ尚更何時、何処で吹き込まれたか氣になつて仕方ありません。

 そこで、レコード・レーベルに記された「レコード番號」と、レコード自體に刻印された「マトリックス番號」が唯一の手掛かりとなります。レコード番號は言つてみれば「住民票」で、マトリックス番號は「戸籍」のやうなものです。繼ぎ接ぎのできない1回勝負の吹込みですから、途中歌ひ間違へたり、或ひは録音盤の状態が不安定であつたり、同じ曲を何度も入れます。その際に何回目の吹込みかわかるやうに數を記録して、そのままレコード盤に刻印してゐます。このマトリックス番號は他の國でプレスされても、ずっと同じものですから、違ふ製造元でもこの番號さへ判れば同じ吹込みかどうかわかります。

Acousticbook 今日掲げたものは7吋盤です。初めてベルリナーが平盤レコードを發明した際は手回しの機械で、後にゼンマイ仕掛けの蓄音機になりました。初期の頃は、まだ7吋盤が主流でした。プレスの原盤に刻印したものから、紙ラベルに變はり、段々と意匠を凝らすやうになります。左のコロムビア盤は維納管絃樂團によるツィーラーの《維納娘》、右の緑のゾノフォン盤はザイドラー・ウィンクラー指揮による自前のオケで、J・シュトラウスの《かうもり・カドリール》です。

 《維納娘》はコロムビアが録音用に作つた管絃樂團で、862番の刻印があり、絃樂器の入らないブラス・バンドの音がします。《かうもり》の方は、喜歌劇のいいとこ取りで、レコード番號20517とマトリックス番號H47kが見えます。そこでこの『管絃樂吹込 1896-1926』と云ふ本が役立ちます。これは電氣録音前のオーケストラ吹込が網羅された、素晴らしい資料です(たいへん高價なものです)。これで曲名、演奏者のどちらでも索引から引くことができ、《維納娘》は1904(明治37)年の型録に出てゐることが判明しましたので、たぶん前年の吹込み、《かうもり》ははっきり04年の吹込みだとわかりました。

 丁度、日露戰爭の頃で、《蝶々夫人》がミラノで初演されてた100年も前なのですね。人と人の手を亘り、巡り巡つて今は私の手元に有り、然も、現役で音が聽き取れるのが不思議です。100年後のCDが再生できるかどうか、非常に疑問です。誰かが調べたこのやうな資料がない場合は、バラバラの文献からコツコツ拾つて行かねばならず、判らないことが多いのです。



The Orchestra on Record, 1896-1926: An Encyclopedia of Orchestral Recordings Made by the Acoustical Process (Discographies)


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The Orchestra on Record, 1896-1926: An Encyclopedia of Orchestral Recordings Made by the Acoustical Process (Discographies)


著者:Claude Graveley Arnold

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