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2006年9月 1日 (金)

祝祭劇場

 さて、いよいよ祝祭劇場へ繰り出します。資金難から劇場附帶設備、玄関の大廣間や觀客の爲の休憩室(フォワイエ)を設けることが出來ず、假劇場として出發した爲、非常に狭く、15分前の1ベルまで中に入ることが出來ません。併し、回りは公園になつてゐますから、この丘に向けて開演1時間位前頃から三々五々、人々はゆっくり街から登つて來ます。中央驛邊りまで來るとやっと建物が木々の間から抜きに出た姿を現します。昔は馬車が連なつたことでせう。近附くと、多くの人が手前で立ち止まり記念撮影をしてゐます。そりゃあ、さうです。10年も待つて、或ひは幸運にも切符を手にした人しか集うことの出來ない特別なところなのですから。

 劇場中の様子は「バイロイト音樂祭公式HP」に譲ることにしませう。畫面操作で舞臺から360度見えます。場内は撮影、録音禁止です。通常の劇場なら幕間やカーテンコールの撮影は許されてゐますが、此処は違ひます。真ん中に通路がない爲、觀客は脇から入ります。それ故1ベルの代はりのファンファーレを耳にしたら真ん中の人は先に入らねばなりません。座席も狭く、薄い板張りに僅かに布が張つてある程度ですから、座布團持參した方がいいでせう。有料の貸し出しもあります。

 古代希臘の演劇を研究したリヒャルトだけあつて、やや擂り鉢状に舞臺が低い位置に在り、客席は段々高くなつてゐます。然も、「總合芸術」を目指した自身の作品だけの上演の爲に建てられただけに、舞臺に集中できるやうに伴奏者達は客席から見えず、管絃樂團がやや舞臺の下に潜り込むやうな形で配置され、管絃樂と歌手の音が一體化するやうな特殊な構造です。
 LPやCDで親しんだこの劇場での實況録音は數々ありますが、實際に自分の耳で聽くのと大きな違ひがありました。思ひの他室内樂的な透明な響きがあります。雰圍氣まで傳へるとなると、SP盤の方が再現力があるかも知れません。普段自宅で大音響でワーグナーを聽くのを常としてゐた私は恥ずかしくなりました。まるで違ふのです。
 各樂器の音がはっきりと聽き取れ、粒立つた音符の流れを感じ、五月蠅過ぎない管絃樂と歌手の聲が混然と一體化した響きが押し寄せるのではなくて、心地よく包み込んでくれます。一同に會した人々は皆これを樂しむ爲に來てゐるのだと一人合點がいきました。

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