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2006年11月28日 (火)

夏の嵐

 先週コメントを頂いた、ヴィスコンティ初めての総天然色映畫《夏の嵐》に就いても詳しく書かねばなりません。これは、1954(昭和29)年に公開された戀愛歴史活劇です(119分)。原題は「官能(Senso)」。此処ではブルックナーの交響曲第7番の斷片が遺憾なく使はれ、思ひの他効果を上げてゐます。

 1866(慶應2)年の墺地利支配下のヴェネツィア。今、將にヴェルディの《イル・トロヴァトーレ》がフェニーチェ座で上演されてゐる最中、決闘することになった從兄弟を助けようと、リヴィア・セルピエーリ伯爵夫人(アリダ・バリ)は相手の墺地利士官フランツ・マーラー中尉(ファーリー・グレンジャー)を桟敷に呼びます。墺地利軍の乳白色の上着に側線入り水色のズボンの制服が鮮やかで格好いい!それにマントが粋です。
 〈見よ、薪の恐ろしい火を〉のアリアが「武器を取れ!」と歌ふと、現實世界にも呼應してをり、伊太利獨立の機運は高まつてゐる爲、反墺のビラが桟敷席から蒔かれます。舞臺でレオノーラが〈戀は薔薇色の翼に乘つて〉を歌ふ最中、リヴィアの切羽詰まつた状況が重なり、愛のない夫よりも從兄弟に心曳かれてゐた筈が、今度は若い士官に氣持ちが動きます。從兄弟は流刑となつて決闘は免れますが、ふたりは逢瀬を重ねる中、つひに戰爭が始まり、リヴィアは夫と共に疎開して引き裂かれてしまひます。
 併し、その屋敷へ突然フランツが現れ、除隊して一緒にならうと口説かれたリヴィアは統一伊太利の爲の資金を渡してしまひます。ところが何時まで待つてもフランツから連絡はなく、やっとの思ひでヴェローナを訪ねるとただの逃亡兵として娼婦と一緒に居る酔っぱらいの姿でした。全てを捨てて來た筈のリヴィアを口汚く罵るフランツ。傷附けられたリヴィアは墺地利軍司令部に赴き、逃亡兵を密告し、フランツは即処刑され、暗がりの町の中に彷徨(さまよ)ひ出たリヴィアは消えて行くのでした。

 戰爭に翻弄される不倫の仲とだけ捉へるのではなく、時代の大きな波に飲み込まれた若い男女の悲劇と捉へたいものです。伊太利が統一されるのは明治維新と差程變はらない時期であつたと知りました。コルセットの紐をぐいぐいひっぱる場面は洋服の違ひを最も感じさせてくれます。戰闘場面は壮大ではありますが、鉛の兵隊を動かしてゐるかのやうに俯瞰から油繪のやうに迫ります。ブルックナーの音にどっぷり浸かり、ヴェルディに酔ふ冒頭も19世紀を身近に感じさせてくれますね。この映畫からブルックナーに入つたのだと、今頃思ひ出しました。
 そして、火災前の1990(平成2)年ににフェニーチェ座の平戸間で觀た『トスカ』も鮮やかな記憶として蘇ります。偶然にも、翌週に獨逸へ戻ると伯林のドイチェ・オパーで同じ歌手がトスカ役で歌つてました。カンタービレの伊太利に比べると、質實剛健、ワーグナーのやうに管絃樂が鳴り響く中でのトスカ。國の違ひがよく出てゐました。

 ヴィスコンティは最初、伯爵夫人役にイングリット・バーグマン、中尉役にマーロン・ブロンドを考へてゐたさうですが、日程の関係だかで流れたのだとか。もし實現してゐれば、随分變はつた雰圍氣になつたでせうねえ。

 今晩のBS2衛星劇場は《ヴェニスに死す》1971年(131分)です。



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プッチーニ:トスカ 全曲


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コメント

 夏の嵐は、官能と激情の渦巻く濃厚な愛憎劇ですよね。ああいう濃厚な世界を描けるのってやはりヴィスコンティ監督を置いてほかにはいないと本当に思います。
 リマスター版のDVD、買っちゃいました!

投稿: Tiberius Felix | 2006年11月28日 (火) 20時44分

衛星放送はどうも昔のフヰルムであつたやうで、畫面が汚くがっかりでした。リマスター版は綺麗でせうねえ、私も買はうかな。

投稿: gramophon | 2006年11月29日 (水) 16時23分

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