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2006年11月30日 (木)

地獄の落ちた勇者ども

 映畫《地獄に堕ちた勇者ども》1969(昭和44)年制作(155分)は獨逸の轍鋼財閥の頂點に立つ一族の骨肉の爭ひを國家社會主義勞働者黨(ナチス)の臺頭と共に描いた秀作。正面からナチスの蛮行を描けたのは、偏に距離を置いて眺めることのできた伊太利人のヴィスコンティだからでせう。

 のっけからヘルムート・バーガー演じるマルティンの女装からして唖然とさせられます。鐵鋼王エッセンベック家の老ヨアヒム男爵の誕生日の餘興でしたが、弟ギュンターは此処でバッハの無伴奏組曲第3番?をチェロで彈きます。そこに國會炎上の知らせが届き、ナチスによる暴力の時代を豫感させます。この場に居合はせた人の多くがこの後の権力闘爭により道を誤り、死んでしまひますが、一度見ただけではよくわからない映畫です。

 召使ひにシャワーで石鹸を流して貰ふ場面では、バスタブの中に立つてゐる所爲か、チョロチョロとしかお湯を出さないことにショックを受けました。我々日本人から見れば、ザブ~ンとお湯を被るのが豪快であり、快感なのに、権力者がチョロチョロのお湯で何も不平を言はないのです。勿論、カーテンや仕切のない西洋間ですから、仕方ないのですが、文化の違ひを感じましたね。確か、大學の頃に池袋の名畫座で初めて《ヴェニスに死す》と一緒に觀た氣がします。

 老男爵の後繼者たる長男は第一次世界大戰で失つてゐる爲、その未亡人ゾフィが會社を我がものにしようと畫策します。愛人のフリードリヒ(ダーク・ボガード)を社長に据えようしますが、社内に突撃隊の幹部コンスタンティンと親衛隊のアッシェンバッハ大佐が居て、ナチスの権力闘爭の縮圖にもなつてゐます。物語はゾフィの希望に添はず、コンスタンティンは突撃隊の「血の粛正」で排除され、権力に目覺めたマルティンは親衛隊に入隊し、自分を愚弄して來たゾフィ(母)を犯し、フリードリヒを自殺に追ひ込み、アッシェンバッハの描いた筋書き通りに、一族は崩壊して新秩序が生まれるのでした。富と権力「ラインの黄金」を手中に収めるのは醜いアルベリヒ(ナチス)だとなぞらえてるゐるとすれば、この始まりは最後にどうなるか、既に「神々の黄昏」を我々に教へてくれます。

 1934年6月30日にレーム率いる突撃隊を親衛隊が急襲して、數百人の突撃隊員が粛正されてゐるのですが、それがまた泥酔して滅茶苦茶になつた明け方に襲はれて、機關銃でバリバリ殺され、ドボドボ血が出て、1960年代の東映ヤクザ映畫と同じに血で溢れてうんざりします。でも、目を背けてはいけません。これこそナチスが法を捨ててやった蛮行なのです。

 今晩のBS衛星劇場は《熊座の淡き星影》です。



地獄に堕ちた勇者ども


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