« ラ・スカラ | トップページ | 夏の嵐 »

2006年11月27日 (月)

若者のすべて

 ずっと北西伊太利旅行の話しばかり書いてゐるうちに、ルキノ・ヴィスコンティ生誕100周年記念に絡んでか、衛星映畫劇場で随分とまとまって作品が放映されてゐます。今週はヴィスコンティ映畫に就いて書きませう。

 日本では初期の作品は殆ど公開されず、《地獄に堕ちた勇者ども》もさして注目されず、1971年に《ヴェニスに死す》公開後、監督の死後1978年に初めて《家族の肖像》が上映されてからが、突然の流行となつた模様です。
 續いて《イノセント》《郵便配達は二度ベルを鳴らす》が公開され、1980年代に入るとまづ岩波ホールで《ルートヴィヒ 神々の黄昏》がお目見えし、81年に《ベリッシマ》、《山猫》伊太利語完全版、82年には《若者のすべて》完全版、そして《熊座の淡き星影》と順々に公開されて行き、つひに澁谷のパルコPart3で「ヴィスコンティとその藝術」と題した一大回顧展が開かれました。この公開時期は、丁度多感な高校から大學生と云ふ期間に當たり、その時にどっぷり洗禮を受けました。今思へばブームに乘つてゐただけかも知れませんが、ミラノ・スカラ座の引越し公演も重なり、歐州への憧れが開花したのもこの時期でせう。映畫の衣裳だけでなく、オペラの舞臺衣裳も飾られたこの展覧會は壓倒的な迫力で本物に接することができました。

 さて、今晩放映される《若者のすべて》は原題「ロッコとその兄弟たち(Rocco e i suoi fratelli)」で、1960(昭和35)年公開、1982(昭和57)年に完全版に披露された118分の白黒映畫です。
 伊太利南部のバジリカータ州からミラノへ、4人の息子を連れた未亡人が貧農を逃れ、少しでもよい暮らしをする爲にやって來ます。先に行つてゐた長男にはいい顔されず、次男シモーネは拳闘を始めて芽が出ると娼婦ナディアに夢中となって身を崩し、兄の厖大な借金を肩代はりする聖人のやうな三男ロッコ(アラン・ドロン)だけでは家族の崩壊を止められず、都會に馴染んだ四男チーロと末っ子のルカは貧ししかつたけれども、仲睦まじかつた故郷へ歸へることを思ひ附くのでした。

 貧農を印象附ける拳闘を始める場面。着替へすら持ち合はせがなく、下着で練習を始めて失笑を買ふところです。高度成長期前の日本も同じやうな状況であつたことでせう。
 シモーネに愛想を附かしたナディアと兵役から戻った繊細なロッコが逢ひ引きをするのが、ミラノの大聖堂(ドゥオーモ)の屋上です。幾重にも重なるゴシックの尖塔、その間から見渡す景色。精悍なドロンの顔と共に白黒なのに鮮明に覺へてゐます。縒(よ)りを戻さうと弟の前ナディアを辱めるシモーネは結局、何をやってもうまく行かず、自暴自棄彼となつて彼女を殺してしまひます。夢見た都會暮らしも散々な結果となるこの家族。ヴィスコンティが初期の作品から一貫して描き續けた家庭の崩壊は、ここでも普遍性を得て色々考へさせられます。

 自分が長男ならやはり婚約の席に突然現れた家族を温かく迎へ入れられるだらうか、シモーネと違ひ、喩へちやほやされても、そのまま拳闘を續けられるのだらうか、ロッコのように自己犠牲で家族を支へることができるだらうか、四男のやうに工場勤めができるのだらうか、上の兄貴たちを見てゐる末っ子のやうにうまく立ち回れるのだらうか。大きな疑問を抱へますが、ここで氣附くのは母の強さです。泣いたとしても立ち直り、芯の強い母は些細なことでは微動だにしません。マンマの味でないと駄目だと云ふ伊太利男の氣持ちがよくわかります。



若者のすべて


DVD

若者のすべて


販売元:東北新社

発売日:2006/05/25

Amazon.co.jpで詳細を確認する


  

|

« ラ・スカラ | トップページ | 夏の嵐 »

コメント

ヴィスコンティ監督が渾身の力を込めた4時間の大作だが、監督は単純に耽美主義的に「狂王ルードヴィヒ」を描いているだけではない。この一作に4時間という時間をかけたのは、ドイツを始めとするヨーロッパ人の自らの歴史に関する深い愛憎、怨念のようなものを塗りこめたかったからに違いない。
ともあれこの映画の主たるストーリー・・・バイエルン王ルードヴィヒのご乱行・・・が進行する時代はドイツ史上でも最も重要な時期、「遅れたドイツ」が新興プロシャのビスマルクの豪腕により始めて一つになる時期なのである。(拙著「映画で楽しむ世界史」110章で詳述)

投稿: 杉原 啓史 | 2006年11月27日 (月) 15時29分

 杉原さんは御本も出版されてゐるのですね。確かに、映畫を見てから、その歴史背景が氣になり、本を讀むことがあります。

投稿: gramophon | 2006年11月27日 (月) 16時17分

この記事へのコメントは終了しました。

« ラ・スカラ | トップページ | 夏の嵐 »