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2006年12月 1日 (金)

ルートヴィヒ

 ヴィスコンティはマンの『魔の山』と、プルーストの『失はれた時を求めて』の映畫化を企ててゐましたが、どちらも頓挫してしまひました。もしも、完成してゐれば《地獄に堕ちた勇者ども》《ヴェニスに死す》《ルートヴィヒ 神々の黄昏》と共に獨逸4部作を成し、長くて時間が飛んで難解な小説『失はれた~』から19世紀、ベル・エポックの時代の巴里上流階級の混沌とした人間模様を鮮やかに描いてくれたことでせう。臺本も完成してゐた《失はれた~》は特に殘念です。

 さて、この《ルートヴィヒ》1972年制作(240分)はバイエルン國王ルートヴィヒ2世[在位:1864-1886] (ヘルムート・バーガー)が18歳で即位してから、40歳で謎の溺死をする迄を描いてゐます。孤獨を愛し、現實から逃れて城造りに熱中し、ワーグナーの音樂に癒しを求め、精悍な青年王が何時しか太り、蟲齒に侵され、同性愛に耽り、頽廢の極みに達すると國家財政を揺るがすことから精神病と決め附けられて退位させられてしまひます。彼が愛し心を開いたのは、従姉の墺地利皇后エリーザベト(ロミー・シュナイダー)一人でした。シュナイダーはエリーザベト役で女優デビューしてゐますが、貴賓といい風格といい、實に堂々として美しいですね。

 金をせびり、自分の欲望をどんどん叶えて行く作曲家ワーグナー(トレーバー・ハワード)は俗物で、吐き氣がする位厭な奴ですが、裏に流れる彼の音樂は飽くまで美しく、作曲家がどんな奴であつたかは物語りません。王家に生まれた悲劇、弟も精神病で収監されてしまひますが、藝術の庇護者として、太陽王14世に憧れたルートヴィヒの建てた城が現在のバイエルン觀光の目玉と云ふ皮肉。かの有名なノイシュヴァンシュタイン城の公開されてゐない部屋には、今も末裔たちがひっそり暮らしてゐるのだと云ふ事實。

 映畫では側近たちの証言が延々と續きます。偏執狂(パラノイア)とさせる爲に政府高官たちが仕組んだとしか思へませんが、それだけ王を理解してる人は誰もゐなかつたのでせう。長く、重く、陰鬱ですが、華麗な王様の生活の裏側は何事も自由にならない不自由な囚はれ人だと云ふことをよく表してゐます。併し、退屈はしませんが、兎に角長いです。4時間集中するとへとへとになります。これまでのヴィスコンティが撮つた映畫は皆、小説の主人公でしたが、ルートヴィヒ2世は實在の人物だけに丁寧に描きたかつたのでせうねえ。



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コメント

ヴィスコンティ監督が渾身の力を込めた4時間の大作だが、監督は単純に耽美主義的に「狂王ルードヴィヒ」を描いているだけではない。この一作に4時間という時間をかけたのは、ドイツを始めとするヨーロッパ人の自らの歴史に関する深い愛憎、怨念のようなものを塗りこめたかったからに違いない。
ともあれこの映画の主たるストーリー・・・バイエルン王ルードヴィヒのご乱行・・・が進行する時代はドイツ史上でも最も重要な時期、「遅れたドイツ」が新興プロシャのビスマルクの豪腕により始めて一つになる時期なのである。(拙著「映画で楽しむ世界史」110章で詳述)

投稿: 杉原 啓史 | 2006年12月 4日 (月) 00時02分

激動の時代に一個人で過ごすことのできなかった王様の悲劇ですね。

投稿: gramophon | 2006年12月 4日 (月) 22時02分

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