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2007年3月 1日 (木)

2004年8月13日(金)

 今思ひ返しても不思議なことばかりの續いた日でした。當時、友人に書き送つたメールが取つてあつたので、實名は外し、一部書き加へて此処に載せませう。

 13日の金曜日の朝、起きると自然と『新耳袋』を手にしており、これは今日一日に讀めってことだなあと漠然と感じたのです。この日は友達夫婦と一緒に遊ぶ豫定でした(夏期休暇中)。晝食は何処にしようと云ふので、恵比寿のピザ屋で旨い所があるので、其処へ行きませうと事前に決めてありました。さあ當日、前の日に用意して置いた筈の麻の開襟シャツは急に止めにして、格子柄の半袖ボタンダウンに、黒いナイキは止めて、白いドライヴィングシューズに。帽子もカンカン帽を止めて、パナマ帽にしたり、事前に決めた筈が突然その場で突き動かされるやうにして變はり、私の意思が反映されてゐないことに氣附きました。「これはおかしい」とその友人にも怒濤のやうにそれまでの經緯を知らせ、今日はなすがままにお附き合ひ下さいと了承してもらひました。なんとかしっかりしようと思ふものの、何かに脅えざるを得ません。

 レストランに入ると何故か、ピザ屋なのにひとりスパゲッティを注文し、この後どうしませうかと云ふので「琳派」を見に行きませうと切符を出したら、まだやってゐません。何か特別展を東京都美術館でやつてゐた氣がするので、行きませうと山の手線に乘りました。山の手線内の廣告で「四川文明展」をやつてあることがわかつたのですが、それが目的ではないことは何故か明白な感じがするのです。それで上野公園に一緒に行き、これも妙な話しですが、取り敢へず美術館の方向へ歩いて行くと、舊岩崎庭園の看板があり、嗚呼、これだと思ひ「是非行きませう」と行つて洋館を見てゐると、だんだん氣持ちが落ち着いて來るのが自分でもわかります。どうやら此処に呼ばれたらしいと。

 それで和室の方へ移ると狩野派の流れを汲む人の富士山の絵が床の間に描いてある座敷へと辿り着きました。暑い日で、勿論冷房もないのですが、前庭からの風も氣持ちよく、富士山を背に腰を下ろしました。そのまま大の字になりたい位の開放感です。するとご主人には仕事の電話が入り中座し、奥様はその間にお手洗ひに行かれ、私ひとり薄暗い座敷に殘されたのですが、何とも氣持ちよくて、すっかり肩の荷が下りた感じでした。

 そして庭園を出ると靈感の強い奥様から「随分とお顔が晴れやかになりましたね」と云はれて、はたと感じたのは、どうもあの富士山に呼ばれてゐたらしいこと。

 併し、これにはまだ續きがあります。お茶をしてから夕飯はどうしませうか、と聞かれてもこちらはその日獨り身故特に豫定などある筈もなく、氣分もすっきりしたことだし、飲みませう、と誘はれるままに品川の「翁」と云ふ蕎麦屋へ出掛けました。兎に角晴れやかな感じでしたが、どうして富士山かわかりません。蕎麦味噌をつつき乍ら、酒を酌み交はし、やっと思ひ出したのは先週末に横山大觀の「海山十題」を藝大美術館で見て至く感動したことです。それに今日の岩崎邸の床の間で、11枚も富士山を見たんだと云ふ側から、7月に山中湖へ行つた時に知人の舊宅の居間にどでかい富士山の絵を見たことに氣附きました。

 それで12枚、13日の金曜日だからきっと13枚の筈なのに、腑に落ちません。するとご主人が「あっ、此処にもある」と指さすと富士山の寫眞に色附けした絵でした。前からずっとそこに掛かつてゐたけれども、氣附かずにこの店に行かうと誘つたと云ふのです。それで全て13枚を見て、すっきりしました。

 だから何と云ふほどでもありません。何故富士山を13枚見させられたのか全く解りません。何とも不思議な體驗でした。これを「怪」と呼ぶのでせう。その日家に戻り、『新耳袋』の續きを讀みましたが、先にずっと怪に触れた爲か何も起こらず靜かに日附が變はりました。

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