« グランド・ホテル | トップページ | ヒトラー 最期の12日間 »

2007年4月26日 (木)

伯林天使の詩

 もともと、フランクフルトの新店配屬の筈が、店舗そのものがメッセ近くから動物園近くに變はり、當然設計も變更され、遅れに遅れ、そのお陰で伯林に住むことになりました。1987(昭和62)年の春、延び延びになつてゐた開店が本決まりとなり、假從業員の伯林店からフランクフルト店へ移りました。併し、煉瓦運びやら、什器の清掃、搬入、開店までも時間がかかり、統一されてゐた筈のマニュアルが各店舗毎違つてゐて戸惑ひ、毎日憂鬱な氣分でした。
 それまで餘りに伯林生活を非常に樂しんだ爲、離れがたく、伯林フィルや歌劇場を殘り少なくなつた公休日に巡り、壁を寫眞に撮り直し、名殘り惜しく過ごしたことが、毎晩思ひ出されました。斷腸の思ひで轉勤して、最初に觀た映畫が、この『伯林天使の詩』でした。ロード・ムーヴィーの得意なヴィム・ヴェンダース監督が現在の伯林を舞臺に、天使が人になることを描いたこの映畫を見て涙しました。嗚呼、この橋は渡つたことがあり、このカフェを知ってる、防空壕跡も知ってる、勝利の塔へ登つたことがある、圖書館も知ってる、此処も彼処も知ってる… 天使の視線は自分の思ひ出であり、同じ目線でした。知ってゐても、もう住人ではない悲しさ、夢のやうな話しと共に思ひ出が回り、映畫が終はつても暫く立ち上がれない位でした。

 天使のダニエルは、人々に寄り添ひ、心の聲を聞きますが、聞くだけで願ひを叶えることはできません。元天使のピーター・フォークがロケで伯林を訪ねて來ると、向かうにはこちらの姿が見えます。人の聲ばかりを聞くのが仕事なのですが、何時しかサーカスの空中ブランコの女性に戀をしてしまひ、人となって彼女を抱きしめたいと願ふやうになります。

 天使の視線がずっと白黒なのでいい味はひです。原題は「Der Himmel ueber Berlin」、直譯すると「伯林上空の天國」となりませうか。ピーター・フォークが飛行機に乘つて伯林上空へ來る時から、東に遮られた特異な西伯林と云ふ都市を思ひ浮かべられます。ナチス時代の映畫撮りの爲に來てゐるのですが、獨り言のやうに、ぼそぼそ呟くフォークの科白もよく、ロケに使ふ古い自動車が走ると、中から外を撮った敗戰直後の瓦礫の中を走る映像が映し出され、伯林と云ふ街そのものが主題となつてゐます。 

 金融都市フランクフルトでは住む人の温かみを感じられず、人種差別も激しく、同じ獨逸とは思へなかつた時期に、懐かしい伯林と云ふ文字だけで映畫館に入つた、その絶望にも似た氣持ちが忘れられません。でも、出て來る時に、夢も希望も携へ、元氣に足を踏み出すことができました。心温まる映畫です。



ベルリン・天使の詩 デジタルニューマスター版


ベルリン・天使の詩 デジタルニューマスター版


販売元:東北新社

発売日:2006/04/21

Amazon.co.jpで詳細を確認する


|

« グランド・ホテル | トップページ | ヒトラー 最期の12日間 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« グランド・ホテル | トップページ | ヒトラー 最期の12日間 »