« 西部の娘 | トップページ | 額装 »

2007年6月29日 (金)

葡萄畑

 實演歌劇は來月末まで觀られないので、本の紹介でもしませう。

 1960年代後半に亞米利加へ私費留學で渡つた主人公、浩一は夏休みの三箇月間に1年分の學費、凡そ2千弗を稼がねばならず、都會で消費生活をするよりも、加利福留尼亞(加州:カリフォルニア)の葡萄畑で働くことにした。
 高橋三千綱著 『葡萄畑』 新潮文庫 は自身の體驗を元に社會の底邊で働く日系勞働者たちの日常を描いてゐます。單なる體驗談ではなく、しっかりと自身の中で醗酵させ、熟成させた小説です。
 今でこそ、機械で収穫する大農場も當時は安い賃金で人を雇ひ、過酷な勞働をさせてゐました。然も、密入國したり、難民として運ばれて來たり、査証すら持つてゐなかつたり、英語もままならず日本語とチャンポンであつたり、一種獨特な雰圍氣です。身體さへ動けば、葡萄畑でも苺畑でもオレンジ畑でも一年中仕事はあるものの、キツイ割に賃金の安い仕事で生活は樂にはならず、貯まつた賃金は給料日に買ふ酒と女で消え失せてゐます。作物の収穫と共に日系人のキャンプを渡り歩く勞働者の中に、アルバイトとして迷い込んでしまつた學生は戸惑ひ、反撥し乍らも仲間として受け入れられ、やがて去つて行きます。カウボーイハットの白人が仲間を轢き殺しても車の修理代を寄こせと云ふ理不尽な現實や、今はこんなことはないのでせうが、ワインの裏事情とでも云ふべき昔の亞米利加の一面が鋭く描かれてゐます。


|

« 西部の娘 | トップページ | 額装 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 西部の娘 | トップページ | 額装 »