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2007年10月10日 (水)

マルケ王

 伯林國立歌劇場日本公演の内、神奈川縣民ホールで行はれた樂劇《トリスタンとイゾルデ》へ行つて來ました。
ノリックの死去を聞いた後で、何とも氣分が盛り上がらない上、小雨の中、山下公園を目指しました。このホールは20年振り位なのですが、雨も上がり夕暮れの横濱大桟橋から、ミナトミライまで見通せて少し晴れやかさが心に戻ります。荘重主義のバレンボイムの指揮は遅めのテムポでじんわり進みます。3階中央のC席でしたが、やや舞臺が遠いもののよく見え、よく聽こえ、重厚な音樂、正統派のワーグナーを堪能しました。
 ハリー・クプファーの演出は中央回り舞臺に大きく羽を廣げた天使が顔を埋めて嘆くやうなセットが在るだけの簡素なもの。始終薄暗い中で演じられ、背景は墓場で、1幕上陸場面と2幕の途中、幽靈のやうに黒ずくめで盛装した男女が横を向いて墓碑の前に立つてゐました。大昔の話、幾つもある不倫話とでも云ふのか、二人の先には死しかないと暗示してゐるのか、少し不氣味です。また、トリスタンはマルケ王に氣に入られてゐるだけでなく、一歩踏み込んでお稚兒さんと云ふ扱ひであつたやうに、トリスタンと從僕クルヴェナル、イゾルデと侍女ブランゲーネもそれぞれ深い肉體関係があり、トリスタンは元彼のメロートをマルケ王の相手として差し出すものの、嫉妬に狂つたメロートがトリスタンの不義密通を暴いてしまふやうに描いてゐました。忠實な部下なのは夜の相手もしてゐたと見ると、成る程過度な親密さがよく判ります。

 3階席ロビーでは多くの知人に遇ひましたが、皆さん分厚い音にご滿足の様子。1幕は遅いテムポも重なり、時折消化不良を起こすかと思ふ位重い箇所さへあり、コントラバス8人のオケを見ると、バレンボイム自信が敢へて重厚さを求めてゐたやうです。1幕は長丁場に備へて聲量を抑えへてゐたのか、2幕の〈愛の二重唱〉邊りからクリスティアン・フランツ(トリスタン)とワルトラウト・マイヤー(イゾルデ)も冴へて來ました。そして、ルネ・パペ(マルケ王)は深い悲しみに溢れ、氣品と温かさのある素晴らしい聲でした。以前、アバドのDVDで觀たものと同じく、實際に耳にすると尚一層彼の聲の良さは際立つてゐました。
 3幕へ入り、イゾルデの船が近附く頃から乘りもよく、悲劇へまっしぐらに進みました。あのウンター・デン・リンデンの小さな馬蹄形の歌劇場で聽けばもっといい反響が得られるのでせうが、それでもNHKホールよりは格段にましで、縣民ホールの勝利でした。

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コメント

来日中のベルリンのシュターツオーパーですが、昨夜(10月15日)「モーゼとアロン」に行ってきました(於 東京文化会館)。難解だと言われるこの作品ですが、ムスバッハの演出のやり方に一貫性があったことも見事だったですがバレンボイムの指揮の力の入れようというのも実に印象的でした。演奏自体が至難といわれるこの作品、オーケストラは念入りにプローベで鍛え上げられていた形跡がありありでした。弦の金管もこのオケにしてはなかなか巧みな音を出していました。

吉田秀和さんが来ていました。とてもとても94歳には見えず関係者の方々とにこやかに談笑していました。杖なして歩けるほどのお元気な姿を見てとてもうれしかったですね。

投稿: la_vera_storia | 2007年10月16日 (火) 12時18分

la_vera_storiaさん、初論評ありがたうございます。《モーゼ》も評判よかつたみたいですね。吉田秀和さんは未だに絶大な發言力がおありのやうですが、お元氣で何よりです。

投稿: gramophon | 2007年10月16日 (火) 14時12分

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