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2008年2月19日 (火)

The Courier from Hell

 文樂《冥途の飛脚》を觀て來ました。英語の題が上記なのですが、「冥途」が「地獄」と譯されると、とてつもない地の底からやって來た荷物運び人な感じがします。

 今回は初日に切符を手配した爲、6列のほぼ中央で、太夫の正面邊りですから、抜群の客席です。近松門左衛門の代表作として知られた本作は、大阪淡路町の飛脚問屋「龜屋」の養子忠兵衛と郭の遊女、梅川の戀物語。忠兵衛は梅川と戀仲ではありますが、相當入れあげてゐます。既に金を使ひ込んでゐるのを知ってゐる、友人の丹波屋八右衛門も金の催促に來ても、涙を流して辯解するので、つひ同情してしまひます。そこへ遅れてゐた公金300兩が届くと、早速届ける筈が、氣附くと足は郭に向き、梅川に逢ふか逢ふまいか、うじうじと惱んだ末に、顔だけ見て行かうと考へます〈淡路町の段〉。算盤を彈く手代、夜道を驅ける忠兵衛の背景が一緒に動くところ、犬を蹴飛ばすところ、人形ならではの演出が細かく、血の通つた人に見えて來ます。

 郭の越後屋には、先に八右衛門が來てゐて、どうか忠兵衛を助けると思つて追ひ返して欲しいと訴へてゐます。それを立ち聞きした忠兵衛は自分だけでなく、梅川も侮辱されたと短氣を起こし、預かり金の封を切って、八右衛門の借金をその場で返し、梅川も身請けしてしまひます。事情を知った梅川も何処までも附いて行く決心をするのでした〈封印切の段〉。

 戰後に復活された〈道行相合駕籠(カゴ)〉は大和路へ逃げる二人が、駕籠を返し、忠兵衛の實の父親に梅川を紹介したかったのだが、薄(ススキ)が揺れるだけでも、追手かと思ひ、寂しく死出の旅を進みます。

 今でもキャバクラ通ひやホスト通ひで身代を潰すやうな人が大勢をりますから、決して江戸時代の話ではなくて、現代に通じる物語なのですね。併し、まあどうして、世話物の主人公はかうも女々しいのでせう。逆に色男に附いて行く遊女が哀れでなりません。ええっ~、どうしてそこで公金に手を附けるのでせうか。現金で大金を目の前にすると氣持ちが揺らぐものなのでせうか。嫌な奴に身請けされるにしても、相手を破滅させてしまつた罪を思ひ、好きな人と結ばれた一時を喜ぶ哀れ。竹本綱大夫の語りは情をしっとり語つてゐました。
 八右衛門は大阪方言で「ハッチエモン」と云ふのが、耳に新鮮でした。そして、最後の〈道行~〉はなくてもよかったやうな。〈封印~〉で二人が堕ちて行く行く末を暗示するだけでも悲劇の性格は十分傳はる氣もしますので、やや蛇足ぽさを感じました。

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