« 文語 | トップページ | マデラ酒 »

2008年3月26日 (水)

城壁のハムレット

 先日、薩摩琵琶奏者、友吉鶴心さんと門下生の提琴演奏會がありました。フランクの《提琴奏鳴曲》は大好きな曲だけに大いに期待して行ったのですが、殘念でした。モデルさんかと思ふ程細い身體からは、そのままのキンキンとした細い音しか出て來ず、始終凡庸な速度にメゾ・ピアノ位の大きさで、響かぬ會場にも拘はらず、餘韻を殘す努力もなくて、ブツブツと切れ、伴奏も危うい所が幾箇所もあり、違ふ意味でハラハラさせられ、ご本人から提琴の樂しさや、嬉しさは全く傳はつて來ず、お復習ひ會にしてはお粗末でした。

 それに引き替へ、師匠たる鶴心さんの歌はぐいッと心を鷲掴みにする勢ひと文語がビシビシ傳はつて來ます。村上元三作詞、鶴田錦史作曲の《義經》は、大物の浦で平家の怨靈に行く手を阻まれ、辯慶が祈祷する〈船辯慶〉から、靜御前との〈吉野の別れ〉そして、山伏に變装した関守、富樫左衛門丞が情けをもって見逃す〈勸進帳〉まで入つた贅澤な曲です。歌舞伎や文樂でお馴染みの場面が、浪に揉まれる小舟の様子、強力姿の判官を打ち附ける辯慶等琵琶ならではの表現が面白く、お弟子さん二人が加はることで音量も増し、迫力が出て素晴らしかったです。

 特に良かつたのは、橋本治作詞の《城壁のハムレット》。桃尻譯のいい加減な本ばかりの惡い印象の作家さんですが、どうしてどうして、格調高い文語が収まりもよく書かれ、日本語の美しさを堪能できました。「to be or not to be」は「このままあるかあらざるか」と譯され、死ぬべきかと云ふ大仰な問ひではなく、もっと身近な根源的な問ひになつてゐます。この作品は、最初に鶴心さんに作詞した作品ださうで、さう云へば以前鶴心さんに遇った際、橋本さんの生原稿を見せて頂いたことがありました。自分にはとても真似のできない美しい文語に、さすがは専門家だと一人唸つたものです。
 以前行はれた國立劇場第19回特別企劃公演「新しい傳統藝能―怪しの世界」の臺本と、作者と演者の對談本では、鶴心さんと橋本さんが語り合つてゐます。

怪しの世界Book怪しの世界


著者:国立劇場,橋本 治,いとう せいこう,夢枕 獏

販売元:紀伊國屋書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

|

« 文語 | トップページ | マデラ酒 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/41030/11772164

この記事へのトラックバック一覧です: 城壁のハムレット:

« 文語 | トップページ | マデラ酒 »