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2008年4月 2日 (水)

菜の花

 『汽笛一聲… 上氣嫌』の今回の主題は〈菜の花〉です。此処では正字舊假名遣ひで掲載致します。

 五月の初めまで、〈今朝〉のすぐ近く、中央區の濱離宮では鮮やかな黄色い絨毯のやうに華開いた「菜の花」が見られます。春を彩る菜の花は切り花としても綺麗ですが、古くは「菜種油」を採る爲に植ゑられたものでした。

 食用となつたのは第二次世界大戦後のことで、蕾(ツボミ)の膨らんだ頃合ひを見計らひ、茎の先だけを摘んで「菜の花漬け」として伏見桃山邊りから京都に出荷されたのが最初だと言はれてゐます。上品な黄色と形が好まれ、徐々に普及しました。
 關東では、千葉縣南部、冬も温暖な房総半嶋で切り花と養蜂用として冬に栽培されてゐたものを、戰後、食用「菜花(ナバナ)」として賣り出したところ好評を得て、野菜として定着したやうです。
 これは冬に咲く「寒咲花菜(カンザキハナナ)」と云ふ早生品種で、とう立ちが早く、茎は短く、花の間は詰まつてゐて、茎先20糎程を摘んで出荷してゐます。

 菜の花は、油菜(アブラナ)科油菜(アブラナ)屬の植物ですが、油料系植物として日本在来種と西洋油菜とがあり、近年は西洋種が多く栽培されてゐます。

 種子の含油量が40%もあることから、嘗ては、行燈など光源燃料として使はれました。精製された現在は、クセがなくあっさりしているところが氣に入られて、最も人氣の食用油として利用されてゐます。
 昔は心臓障害との關連が取り沙汰されたエルカ酸(別名エルシン酸)や、甲状腺障害を引き起こす含硫化合物が多く、食用に適さないと言はれましたが、品種改良が進み、食用油となつてゐます。

 「サラダ油」はドレッシングなどの原材料に使はれ、「白絞油(シラシメユ)」は油揚げの揚げ油として、天麩羅や炒め物に使はれてゐます。
 白絞油とサラダ油との違ひは精製度の違ひです。サラダ油は低温でも濁らないようにワックス分を除去するなど、さらに精製度を高め、熱に強く酸化し難い性質を持つてゐます。今では日本の代表的な植物油になつたにも拘はらず、原料は加奈陀や中國からの輸入に100%頼つてゐるのが現状です。

 使ひ古した菜種油は「油粕」として肥料になります。特にこの菜種の絞り粕は窒素を5%、五酸化リンを約2.5%含んでゐるばかりか、近年、バスの燃料など、石油に替はる新たな燃料として利用され、それ故、菜種油が高騰してゐます。

 菜の花が咲く頃に、春雨前線が停滞すると「菜種梅雨」と呼ばれることがあります。氣象廳がその時期を明確に定めてゐる譯ではありませんが、三月半ばから四月の初めに掛けて、ぐずついた天氣が續くことを指します。

 菜の花や 月は東に日は西に
 菜の花や 鯨もよらず 海暮ぬ

のやうに、与謝蕪村が菜の花を詠んだ句も幾つかあり、油の原料として古くから栽培もされて来ましたが、元来丈夫な植物で、川原や荒れた土地にも生え、春を彩る風景となっていました。

 菜の花畠に、入日薄れ
 見わたす山の端、霞ふかし
 春風そよふく、空を見れば
 夕月かかりて、におい淡し

と高野辰之の作詞、岡野貞一の作曲による唱歌《朧月夜(おぼろづきよ)》にも歌はれ、日本の代表的な田園風景としても、菜の花は私たちの心に刻まれてゐます。

 そんな菜の花を美味しく頂くには「お浸し」が一番でせうか。茹で過ぎに注意して、部位に分けて茹でると仕上がりがよくなります。
 沸騰した湯に鹽少々を入れ、茎、花先、葉の順に加へてひと混ぜし、すぐに氷水に取りませう。色も鮮やかなまま、流水に晒し、完全に冷ましてから、蕾を下に向けて絞ります。花の中の水も切れて、ポン酢でも掛けると、あっさり簡単に頂けます。
 他には、芥子和へ、お吸物だけでなく、スパゲッティに混ぜ合はせたり、モッツァレラチーズと一緒に頂いても美味しいものです。

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