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2008年5月22日 (木)

黒と陰

 江川亂歩作、三嶋由起夫脚本、美輪明宏演出・美術・音樂・衣裳の芝居《黒蜥蜴》を觀る。2002(平成14)年に宅間伸との共演、三嶋由起夫作『近代能樂集』から《葵の上》と《卒塔婆小町》の感動が忘れられず、いつか見たいと思つてゐた舞臺です。「黒蜥蜴」と變換する筈が最初に出て來る文字は「黒と陰」。そんな言葉遊びも、亂歩や三嶋ならしてゐるのかも知れません。

 幾度再演してゐるか知りませんが、色褪せないどころか、却つて圓熟味が増して來るのは美輪の舞臺の良さです。その美輪が全てに氣を配つてゐる爲、豪華極まりなく、嘘のない舞臺が素敵です。もう相當なお婆さんの筈ですが、狡賢い女狐、女盗賊「黒蜥蜴」は嵌り役なのでせう、寸分の狂ひもなく、役そのものにしか見えません。三嶋らしい、もって回った美辭美麗が並び立てられた、ややもすると舌を噛みさうな科白も、流れる如く自然に發せられるのが素晴らしい。當たり前のやうに話します。作中のからくりは既に知つてゐることばかりですが、聲色を變たり、衣裳を變へる度に女優としての厚みが匂ひ立ち、只々凄いと唸るばかり。

 粗筋は寶石商から「埃及(エジプト)の星」と云ふダイヤモンドと娘を盗み出し、自分の蒐集品として飾ることを目論む黒蜥蜴と、それを阻止せんと立ちはだかる私立探偵明智小五郎との戰ひと心の葛藤を描いたもの。東京タワー、アジトへ向かふ船内、私設美術館内等舞臺とは思へないやうな凝った大道具も美しい。一見陳腐に見える東京タワーの展望室も、昇降機から出入りする客の雑沓を交へることで不自然さがなくなり、背景に繪も生き生きとして見えます。

 相手役の高嶋政宏、愛人雨宮役の木村彰吾も不自然さがない。高嶋兄は貫禄さへ感じさせ、孤獨な探偵家業の悲哀さと、夜会服の着こなしの良さが光り、無駄がありません。一方、美輪の子飼ひ、木村は(足が長くて舞臺映えする!)、若さ故の黒蜥蜴に對する反撥だとか、熱い思ひや憧れを語るにしても、もしかして現實世界でも美輪との密接な関係を仄めかすやうな熱の入れやうがこれまた素敵。

 惜しむらくは22列まで、すっきり聲が通らないこと。長科白はやや聞き取り辛かつたです。まあ、切符が手に入つただけでも奇跡と云はねばならぬ程、手に入れるのはたいへんでした。幕切れ後の挨拶は白いドレスの美輪を囲むやうに幾度も現れた面々は全て美輪の飾りものであり、美輪だけを引き立てる脇役でしかなく、その美輪はまるで觀音様のやうに見えて來る不思議。「オーラの泉」を見たからでもないのでせうが、その押し出しと云ひ、迫力と云ひ、和ませる不思議な力が漂つてゐました。恐るべし、美輪の力ってところでせうか。

 亂歩の原作も三嶋の戯曲も文庫本があります。

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