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2009年3月17日 (火)

ラインの河底から

 拍手が消え、全照明が落とされ、オケピの仄かな明かりだけがピアニッシモから「生成の動機」を奏で始める。正に真ッ暗闇の無からの説得力ある始まり故、指揮者がいつ來たのかも判らずに、まるでバイロイトのやうに開始される素晴らしい幕開けでした。

 新國の〈ラインの黄金〉は舞臺に小さな明かりだけが點り、こちらに向けて光を發してゐるが、正體が暫く判らない。依然として暗いのである。漸くスポットライトの中にヴォータンが映寫機を觀客席に向けてゐるのが暫く見え、それが反轉して大きな幕にラインの流れが映し出されると、下には番號札の附いた客席の背が並んでゐる。これで、ヴォータンが過去を振り返ってゐるやうに見える演出だと理解できる。素晴らしい。

 その客席はライン岸となり、ラインの乙女にからかはれたアルベリヒが飛び込むと、その様子が幕に投じられ、ジグゾーパズル状の黄金のワン・ピースが盗まれるのである。そして、このやや歪んだ幕の形の枠の中で、ヴァルハラの城のまるで假小屋のやうな事務所のやうな佇まひとなる。設計圖の前でひとり悦に入るヴォータンを事務員のやうな妻フリッカが、城の代金としてフライアが連れ去られると詰(なじ)る。窓奥から車のサーチライトのやうな明かりが二つやって來ると、それが巨人族のファーフナーとファーゾルトであった。幸福の神フローはずっとカメラを回してゐるのである。

 ヴォータンの知惠袋ローゲはまるで、映畫「カリガリ博士」の中でヴェルナー・クラウス演じる題役のやうにシルクハットに燕尾服とマントで現れる。丸眼鏡を掛けたところまでそっくりだが、ラインの乙女の願ひを傳へ、その黄金を奪ひフライアの代はり與へればよいと入れ知惠し、巨漢の二人は黄金が手に入る迄は人質としてフライアを連れ去ってしまふ。

 舞臺装置が上手に流れると、下手からニーベルング族の地下王國が現れる。アルベリヒの弟、鍛冶屋のミーメは奴隷のやうにこき使はれるとローゲに嘆く。魔術を見學に來たと言はれ、アルベリヒは「隠れ蓑」の力を見せ附ける。大蛇にはなれたが、小さな蛙にはなれないだらうと云はれて、腹立ち蛙になつたところを捕まえられて、天井世界へ連れ去られて行く。

 身柄を自由にする代はりに黄金を差し出したが、指環に呪ひを掛けられ、手放さうとしないヴォータンに知惠の神エルダが危險だと告げ、仕方なく手放すと、フライアの代はりに受け取つた巨人族のふたりは殺し合つてしまふ。最後に刀を取り去ったフライアは手を血に染め、ずっと浮かない顔をしてゐる。

そして、雷神ドンナーの雷が下ろされると、白い空港の待合ひ室のやうなところとなり、虹の架け橋として空から七色の風船が落ちて來て、皆白装束に變はり、北歐神話の神意外にも、お釈迦樣、基督、伊弉諾尊&伊弉冉尊、シバ神、埃及の女王、海神ネプチューン等宗教を越えた神々が集まり、不安定であつた三角の背景の真ん中が割れて、光の中ワルハラへと進むのでありました。炎の神ローゲは城一箇所に留まるのは嫌だと、ひとり黒い装束のまま、煙草をくゆらし、手には炎を掲げ、休憩無しの全幕2時間40分が終はります。

 キース・ウォーナーの演出はかなり奇抜なのですが、まあこんな感じです。初演の時に《神々の黄昏》を觀た際は「トンデモ演出」だと思つたのですが、時代が受け入れたのか、違和感はありませんでした。
 歌手は凸凹も少なく、突出して上手な人が居る譯でもなく、無難な選擇でありました。併し、いつもは小氣味よく疾風怒濤のやうな筈のエッティンガーの指揮は師匠バレンボイムの重さを準(なぞら)えたのか、重厚さばかりが目立ち、やや遅めのモサッとした感じばかりが目立ちました。勿論、東フィルからあれだけの音の強弱を引き出す腕は一流です。どっぷりワーグナーの音の渦に浸る感じは代へ難いもの。それ故、じっくり丁寧に、細かく説明するやうなテムポに驚いた譯です。來月の《ワルキューレ》に期待しませう。

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» 復話§新国立劇場『ラインの黄金』再演[上] [ひだまりのお話]
2001年のプレミエ公演から8年も経ってようやく再演が実現するとい う、新国が生きた劇場としての態を為していないことに呆れる。が、 貴重なワーグナー上演なので当然ながら足を運ぶことになる。... [続きを読む]

受信: 2009年3月17日 (火) 23時15分

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