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2009年12月 3日 (木)

新維納樂派

 新國で新演出のベルク作曲、歌劇《ヴォツェック》を觀る。貧困に喘ぐ兵士ヴォツェックが、内縁の妻マリーがマッチョな鼓手長と關係を暴き、云はば痴情の縺れから殺人を犯すと云ふ、今でも何処にでもありさうな粗筋である。ゲオルク・ビューヒナー(1813-1837)の戯曲にベルクが無調で曲を附けてをり、耳慣れない不協和音や半ば叫ぶやうに歌ふ「シュプレヒシュティンメ」が異樣だつたが、今や21世紀にもなると違和感がない。20世紀前半の古典として聽ける。

 初めて耳にしたのは、1984年であらうか、獨逸文化會館でオペラ映畫連續上演したことがあり、その際にロルツィンクの《皇帝と船大工》、ワーグナーの《タンホイザー》と《マイスタージンガー》と共に、通って觀たのが最初だらう。ませた學生であつたが、更にベーム指揮のLPを買ひ、頭の中が解れて絡み合つた糸のやうになり乍らも必至に聽いたものだ。そして、迎へたベルク生誕百周年の1985(昭和60)年に、若杉弘指揮の歌劇と小澤征爾指揮の演奏會上演と兩方聽いてゐる。手堅く纏めた若杉と、赤く異樣に光る月と歌の入らないオケだけの箇所だけが際立って上手だった小澤共々印象深い。それ以來、一度も聽いてゐなかつたが、案外記憶は確かなもので、細かい所も覺へてゐたし、存外に獨逸語が歌よりも聞き取り易いので吃驚した。

 今回の上演はミュンヘン國立歌劇場と共同制作され、クリ-ゲンブルクの同じ演出が二つの歌劇場で觀られる。不氣味に太った大尉のヒゲを剃る場面は、空中に浮かぶやうに天井の高くて、お小水のやうな黄色い染みがあちこちにでき、奧に高窓のある地下室のやうなところから始まる。そして、それが後方に移動すると、全面に水を張った真っ黒な舞臺が登場し、ピチャピチャ音をたてて人が移動するのが更に陰鬱さを増す。ヴォツェックで人體實驗する醫者はコルセットで身體を固め、兵士仲間や酒場の客は髪が抜け、白塗りの死人のやうであり、伊藤潤二の恐怖漫畫か、ティム・バートンの惡趣味映畫か、ゾンビのやうな惡夢を見させられてゐるやうな異樣さが附きまとふ。手前の水場はそのまま、兵舎にも酒場にも、勿論沼地にもなるのだが、その後ろにはヴォツェックが唯一の拠り所とする家庭が常に浮かんでゐて、全く隠さないのは重々しい雰圍氣を増してヴォツェックが狂氣に驅られて行く樣をよく現してゐた。逃れられない現實、家族を養はねばならない重荷、浮氣が氣になる内縁の妻。

 明るさのない、絶望感だけが廣がる中、唯一、ヴォツェックとマリーの子だけが終始部屋の中に居て、冷靜に回りを見て現實を把握し、最後にマリーの死體が上がったことを知らされた時、普通は原作通り木馬に興じて痛々しさを強調するが、今回の演出ではナイフと人形を手にしっかり前を見据えて、「ポッポ。ポッポ」とだけ歌ふのが強烈であつた。ハーフなのか、子役の中島健一郎は輝いた目としっかりとした演技が立派だった。ヴォツェック役のトーマス・ヨハネス・マイヤー、大尉役フォルカー・フォーゲル、鼓手長役のエンドリック・ヴォトリッヒ、マリー役のウルズラ・ヘッセ・フォン・デン・シュタイ等主役人と醫者役の妻屋秀和は好演。

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<バイエルン・シュターツオーパー共同制作> 2009年11月23日(月)14:00/新国立劇場 指揮/ハルトムート・ヘンヒェン 東京フィルハーモニー交響楽団 新国立劇場合唱団 NHK東京児童合唱団 演出/アンドレアス・クリーゲンブルク 美術/ハラルド・トアー 照明/シュテファン・ボリガー 衣裳/アンドレア・シュラート 振付/ツェンタ・ヘルテル ヴォツェック/トーマス・ヨハネス・マイヤー マリー/ウルズラ・ヘッセ・フォン・デン・シュタイネン 鼓手長/エンドリック・ヴォトリッヒ 大尉/フォルカー・... [続きを読む]

受信: 2009年12月29日 (火) 13時43分

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