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2010年2月 8日 (月)

平成の平安化

 『源氏物語』には、思ひ詰めて拒食症で死ぬ『宇治十帖』の大君のやうな人が出て來る。或ひは家の奧、御簾の中でじっと靜かに暮らすだけでも不健康なのに、食べもしない。通つて來る男を待ち續けるだけ。

  「愛では飯が食えない。しかも身分でも飯が食えない。
 となると人々は結果的に、富を選ぶことになって、社會で
 の經濟のウエイトは、うなぎ登りに高くなっていく。」

 これは大塚ひかり『カラダで感じる源氏物語』ちくま文庫、2002年 の一節。『源氏』は「平安末期のトレンディな小説」であり、「世紀末の世相を反映しつつ、若者の心の不安を見事に描いた現代小説」だった譯だ。戀愛至上主義の貴族社會では、母系的な價値觀でセックスは惡いものではないし、子供が帝に嫁ぎ、跡取りを生めば家は榮えるから、奨励してゐる位。併し、氣持ちは疎かに感じるセックスや寂しさを埋める爲の性行爲が心と體のバランスを崩し、宗教に走ったり、自殺へ辿り着いてしまふ。

 平安時代の貴族は土地の上がりで生活してるので、身體を動かし汗水垂らす勞働は何もせず、いい相手を見附けるのが一番大切なこととなってしまった。宮廷内は足の引っ張り合ひで、罵詈雑言が飛び交ひ、氣に入らないと嫌がらせも平氣でする。何だか、飽食日本、平成の御代にそっくり。

 便利で何でも手に入る世の中になつた爲、何処で作られた野菜なのか、何処の海から運ばれたのか、よく判らないものを食べ、非現實のネット情報に踊らされ、テレビゲームの畫面にのめり込み、身體的な現實感を失った今、經濟成長は望めず、既存のシステムが崩壊し、會社に達成感を求めたとしても、何も得られず、幸せは自分で探す時代となった。

   「一見、なにを考へてゐるか分からない今の若者は、
 實は誰よりも生き生きと生きたいのではないか。生きる
 實感を得たいのではないか。」

 身體が生きる實感を得たい若者は平安貴族と同じだったのかあ。何度も挫折した『源氏』が身近に感じられると共に、生きる根元を考へさせられる。經濟力のある武士が實権を握つたやうに、平成日本人は中國の屬國となるのであらうか。

カラダで感じる源氏物語 (ちくま文庫)Bookカラダで感じる源氏物語 (ちくま文庫)


著者:大塚 ひかり

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» 一阿のことば 33 [ガラス瓶に手紙を入れて]
今のマスコミや識者の言うことにフラフラついてゆくと、とんでもない所へ行ってしまい ます。 [続きを読む]

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