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2010年10月18日 (月)

ズボン役

 新國立劇場2010/11年のオペラ上演期間の開幕を飾るのはリヒャルト・シュトラウスの《アラベッラ》。ホフマンスタールとの最後の協働作業であり、《薔薇の騎士》よりも喜劇的な要素を増やしたと云はれ、1932年に完成し、國家社會主義獨逸勞働者黨(ナチス)が政権を取つた翌年にドレスデンで初演されてゐる。

 社交界の花形で貧乏貴族の長女アラベッラが家を救ふ爲に、男として育てられた妹のズデンカが姉の玉の輿を助けると共に、自身の戀を成就させる話。原作は1860年代の維納を舞臺としてゐるが、演出のフィリップ・アルローは1930年代の大恐慌時代、即ち初演された頃に時代を置き換へ、アール・デコ樣式の維納のホテルを青で飾り、舞臺とした。

 シュトラウスはつひ技巧を凝らせて、心情を鳴らしすぎるきらひはあるものの、第三幕で姉と偽つて初めて男性を相手にし、自らの假面を脱ぎ去り、女性として人前でズデンカが「パパ!ママ!」と叫び乍らネグリジェの儘、階段を下りて來るところに音樂はないのが非常に効果的であり、姉アラベラは婚約の印として一杯の水をもって降りて來る場面となると、氣品に溢れ、陶酔感に包まれる。圓熟した作曲の腕の見せ所となる。ウルフ・シルマーの指揮は激情に走らず、中庸を保ち東フィルを大いに盛り上げ、妻屋秀和はヴァルトナー伯爵を見事に喜劇の父親らしく演じ、ミヒャエル・カウネはちやほやされても性根の優しいアラベッラを歌ひ上げ、アグネーテ・ムンク・ラスムッセンは少年を演じねばならない乙女の揺れる心を可憐に表現してゐた。

 それに引き換へ森英恵の衣装は殘念であつた。演出に合はせて、樣々な青色衣装は確かに面白いが、今更こんな意匠しかないのか疑問に思ふものが多すぎる。夜會服にモーニングを着せたり、時代遅れな意匠が痛々しい程。平成の御代に相應しくない、がっかりさせられものばかり。アラベッラの胸に蝶のブローチを附けるのは許すとしよう、彼女の特徴でもあるのだから。それにしても、大地主マンドリカの意匠など、全くクロアチアらしさなど感じられない、單に中歐風ないい加減なものでしかない。觀客は、もうこんなので騙されはしない。過去の榮光に縋つた惨憺たるものであつた。

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