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2010年11月 4日 (木)

赤垣源藏

 國立劇場小劇場での文樂素淨瑠璃の會を聽く。前半の《誠忠義士銘々傳》より〈早野勘平陰腹の段〉は《假名手本忠臣藏》の〈早野勘平腹切の段〉を改作したもので、「早まったか、勘平」で知られる通り、思ひ込みで腹を切る場面。

 但し、本作は逃れようがなくなつてから腹を切るのではなく、覺悟を決めて陰腹を切り、それから千崎彌五郎が登場し、舅殺しを述懐し、原郷右衛門が現れて、真實がつまびらかにされるやうに順序も變へられ、切腹してゐうてもなかなかほんたうのことが知れず、勘平の無念の程もはっきりと表現される。併し、咲大夫の語りは演じ分けがはっきりせず、誰が語つてゐるのか字幕を見ないと判らないので、殆ど寝てしまつた。燕三の太棹は好演。

 今回の目玉はご存知住大夫&錦糸。《義士銘々傳》より〈赤垣源藏出立の段〉を華麗に演じてくれた。吉良亭討ち入りの晩に酔ッ拂つた源藏が德利を片手に兄の家を訪ねるが、酒代をせびりに來たものと取り次いでも貰へない。そこへ兄嫁が招き入れて、大病をした母に遠方の新たな主君に仕へる爲、暇乞ひに來たと傳へるが、二君に仕へるとは見下げ果てたと激怒し、兄、源左衛門も成敗すると槍を突き掛かり、母も刀を抜いて斬り附けるものの、やおら自分の喉に突き立て自害してしまふ。源藏の本心を悟り、後顧の憂ひがなきやうと真實を語るやうに迫った爲、そこで初めて、討ち入りの覺悟を語るのであった。

 大酔ッ拂ひから後半は忠臣にガラリと變はる樣は大衆娯樂の人氣作品だと知れる。その酔つてゐる樣、立て板に水を流すやうに語られる討ち入りの覺悟、人物の仕分けの妙が樂しめ、住大夫の素晴らしい口捌きを堪能できた。また、素人が耳にしただけでも、如何にも難しい手の太棹も錦糸さんの力演で華を添へ、笑ひあり涙ありの大活劇に聽き入ることができた。これだから文樂は止められない。

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