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2011年1月 7日 (金)

夜の帷

 正月早々、新國で樂劇《トリスタンとイゾルデ》を觀る。大好きなオペラだが長くて、休憩を入れると5時間を超える爲、毎年掛かるものではない。
 毒藥のつもりが誤つて媚藥を飲んでしまつた爲、人目を忍んで、逢瀬を重ね、周りが見えず、二人の自己の内面に沈殿して行くので、もしも、途中寝てしまつても殆ど場面は變はらず、音に身を任せるだけでいい。

 歐州歌劇場で鍛へられた大野和士の指揮はねちっこくなくて澱むことなく流れ、輕過ぎず重過ぎず、浮附かず疊み掛けるやうな迫力もあつて、立派であつた。日本人指揮者も此処までよくなつたかとしきりに感心。それに應へる東フィルもよく頑張つた。

 デイヴィッド・マクヴィカーの演出は舞臺上に大きな海を表す水を湛へ、イゾルデの心情を表してゐるのか、壊れかけた船は回轉するのはよいとして、亞剌比亞風の水夫が大勢出て來るのは疑問。また、大きな太陽が真っ黒い空にうかび、〈愛の死〉と共に沈む演出は、一瞬月にも見えるのだが、クレーターではなく、どう見ても黒點やらフレアのやうなものまで描かれてゐるので、自分には太陽にしか見えない。夜を求めるトリスタンとイゾルデには、晝間こそ暗闇であり、夜の帷の降りた夜中こを愛に溢れた明るい世界だと云ひたかつたのであらう。もしも、赤い月であつたとすると、《ヴォツェック》のやうな狂氣の世界に陥るので、太陽であつたと信じたい。そして、1幕幕切れでマルケ王が姿を現さないのも新鮮であつた。登場人物の設定が随分と年齢を上げてあつて、歌手の實年齢に近いかも知れない。それ故。マルケ王がよぼよぼの爺さんであつたのも驚いた。

 侍女ブランゲーネ役の細いエレナ・ツィトコーワのメゾの歌聲が一番響き、トリスタン役のステファン・グールドも貫禄十分、聲もよく通り、イゾルデ役のイレーネ・テオリンも納得のいく歌ひぷりであり、クルヴェナール役のユッカ・ラジライネンも好演技で、非常に完成度の高い《トリスタン》であつた。見終はつて、數日の間、ずっと頭の中で旋律が繰り返し甦る。かう云ふ機會に惠まれた奇跡を素直に喜ばう。
 
 

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