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2011年10月 6日 (木)

吟遊詩人

 昨夜は新國立劇場でヴェルディの歌劇《イル・トロヴァトーレ(吟遊詩人)》を觀る。ご存知の通り、西班牙を舞臺とした命に引き裂かれた兄弟の愛憎劇で、心地よい旋律も多く中期の傑作だ。何処かの劇場から頼まれて仕方なく書いたのではなく、既に賣れッ子となり自分が選んだ好きな題材を、優秀な臺本作家に頼んで作つてゐるからか、ヴェルディのそれまでのオペラと比べて、初演から大成功し今では世界中で聽かれる作品となつた。

 今回は體調不良で歌手が交代してゐるが、代はりのタマ―ル・イヴェーリが歌ふレオノーラは艶(ツヤ)やかな聲に艶(アデ)やかな身のこなしがよく、タケシャ・メシェ・キザールでなくても何にも問題なかつた。それに、ヴィテッリ(ルーナ伯爵)の嫉妬に狂ふ兄、生き別れた弟役のW.フラッカーロ(マンリーコ)、母を燒き殺されたジプシーの母役、
アンドレア・ウルブリッヒ(アズチェーナ)に加へ、一段と背が高く見榮えのする妻屋秀和(フェルランド)の甲冑姿もよく、優れたアンサンブルを聽かせてくれた。それはピエトロ・ルッツォの疾風樣式の指揮が全體を纏め、大いに引ッ張ッてゐたのは云ふまでもない。

 そして、何と言つてもウルリッヒ・ペータースの演出が解り易い。決して古典的なコスチュームプレイに陥らず、劇場の持てる設備をフルに使ひ、滯ることなく物語が進んだ。最初に幻燈で伊太利語で前節を述べるのも理解がし易く、死神が常に闊歩する暗い世界を描き出したのは秀逸。或る時は登場人物にも見え、常に死と共にあることを觀客に意識させるのがよかつた。恐ろしい話なのに、それがヴェルディの音樂はブンチャカ、ブンチャカと明るく、重たい内容を見事な旋律で包み、樂しませてくれた。震災以降、死と云ふものを嫌でも考へざると得ない今の日本で、久し振りに心底樂しめ、全く眠入る暇もない素敵な公演であつた。

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