ヘルデン・テノール
新國で歌劇《ローエングリン》を觀た。今回、生まれて初めてヘルデン・テノールの美聲に酔いしれた。クラウス・フロリアン・フォークトは白鳥の騎士の役柄に相應しく、惠まれた容姿に加へ、一寸癖のある大きな聲が何とも神々しく、崇高に聞こえて來る。嘗て、太つた歌手に駄目出しをしたルートヴィヒ2世でさへも、きっと感激の餘り、贈り物をしたに違ひない。
この人、元はホルン吹きであつたのだが、テノールに轉向したと云ふ。聲質は嘗て銀行員からヘルデン・テノールとなつたフランツ・フェルカーに似てゐるかも知れない。第1幕の登場場面は久し振りに背中がぞくぞく、鳥肌がたつた。他にグロイスベックのハインリヒ王、メルベートのエルザ、グロフォスキイのテッラムント、レースマークのオルトルートなど、まとまりもよく、いつもの通り合唱の力強い歌聲が大いに盛り上げた。また、百戰錬磨のペーター・シュナイダーの指揮は手堅く、無駄のない引き締まったもので、過剰に盛り上げることもなく、走り過ぎず、遅すぎず、安心して聽ける。それに東フィルもよく應へてゐた。過去に觀た《ローエングリン》の中でも最高であつた。それは英雄の歌聲(ヘルデン・テノール)のお陰である。シュテークマンのちんけな演出は不問に附さう。
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