2014年11月27日 (木)

日本のご馳走 すき燒

 11月19日に愈、すき燒大全とも呼ぶべき本が刊行された。向笠千惠子+すきや連 『日本のごちそう すき焼き』 平凡社では、すき燒全般に就いて食物記者の向笠さんが書き、後半は全國すき燒屋のご主人乃至女將さんがそれぞれの店自慢をしてゐます。すき燒だけに就いて述べられ本は今までなかつたとか。是非、この機會にお買ひ求めください。

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2014年4月23日 (水)

あはひ

 相變はらず本だけは讀み續けてゐる。安田 登 『あわいの力』 ミシマ社が面白い。

 古代には心がなかったと云ふ話から、文字を持つことで心が生まれ、子宮や腹で考へてゐたものが、頭へ上り、つひには行き先を失つてしまつたと云ふのだ。釈迦や基督はその心の縛りを解くことを説いたが、それ以降、誰も其れを超える人がゐない。成る程と思ふことも多く、無駄を教へて、心を豐かにしてゐないことや、今や異界もなくなり、想像力や見立てができなくなつてゐる。輪郭の曖昧なことは決して惡ではない。

 作者は能樂師のワキ。主役である異界からの人に對する、辛い目に遭った現實の人を専門に演じてゐると云ふ。 この本は實利だけを求め、無駄を廢し、心に囚はれ過ぎた現代人には清涼剤とならう。取ッ附き難かった能樂にも大分親しみを覺へた。

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2014年4月11日 (金)

東京老舗めぐり

1  『旅の手帖』5月号 交通新聞社の「東京老舗めぐり」銀座の中でご紹介いただきました。是非、お手にとってご覧ください。

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2013年12月12日 (木)

欺瞞

 この間、自宅の模様替へで300冊くらい本を処分したのだが、たいした金額にならず、がっくり。それでも、買って本を讀むことは止められない。

 倉山滿『嘘だらけの日米近現代史』扶養社新書を讀むと、如何に偏つた報道しか信じて來なかつたが分かる。文句を言ひ恫喝する近隣諸國や戰後の教育が正しくないことがよくわかつた。

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2013年5月15日 (水)

農業

 着物文化が危ないと云ふのは誰の目にも明らかであり、機會がある毎に袖を通し、さも普段から着てる風を装つてゐる。腹も出たので帶の収まりもしっくりし、肩も凝らず、馴染んで來たところだ。最近、中谷比佐子 『きものという農業 大地からきものを作る人たち』 三五館を讀んだ。

 これを讀むと自然と、着物を着ると云ふことは、日本の農業に就いて考へねばならなくなる。嘗ては世界一の品質を誇つた日本の生糸も、量産化により悲しい女工たちの紡績もあり、すっかり過去のものと思はれてゐるが、需要が減り、それに伴ひ養蚕が衰退、和綿栽培の減少、農業が廢れて行き、ひいては日本の土臺も失はれかねない。
 機械ができて便利になると、効率を求めて熟練職人が仕事を失ひ、輸入された生糸や綿花か、或ひは石油化學製品が溢れ、健康を害する人も増える。そろそろ、循環型の生活に移行できないものか。大きな問ひ掛けだ。

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2013年1月31日 (木)

移動美術館

 アートソムリエの山本冬彦さんがお勸めしてゐた西野嘉章 『モバイルミュージアム行動する博物館』 平凡社新書を讀んだ。一過性の特別展では、蒐集品を増やしたり、保管維持管理さへも行き届かず、人件費も捻出できなくなりつつある。そこで、モバイルミュージアムとして移動博物館を造り、トラック一臺で運べるやうな展示を考へ、今まで行つた展示の殘りを使ひ提携先を順次巡り、繼續して行くことで新しい博物館のあり方を考へやうと云ふもの。東京大學総合研究博物館で行つた實例を示し、他館との提携で収支を安定させ、新しい事業モデルを提案してゐる。

 特別展には足繁く通ふ割に、常設展には足を運ばない一般消費者にこちら側に顔を向かせ、氣樂に來られる場を繼續的に作り出すのは並大抵ではないが、既に成功例もあるので21世紀の新しい博物館のあり方のひとつなのかも知れない。

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2013年1月22日 (火)

京都

 京都が戀しくなると、いつも『細雪』を讀んでゐたが、あれは船場のいとさんの話だから、渡辺淳一 『化粧』 講談社文庫を讀んだ。作家と交流のある重金敦之さんの『愚者の説法 賢者のぼやき』 左右社に名前が出て來て、厚い文庫本なので時間も掛かりさうだと期待して讀み始めたら、上下巻3日で讀み終えてしまつた。

 重金さんは週刊朝日の編輯長もされた大先輩で、庭球倶樂部が一緒で學生の頃お手合はせを願つた程度であつたが、食通であり、時折ワイン會で今もお會ひする。新刊本を進呈下さり、積んだままであつたのをやっと年明けにふんふん同意し乍ら讀んだ後、直ぐにこの本の中で京都へ出掛けたのでる。
 大谷崎を意識して櫻の季節の二年間を描いてゐるが、1980年頃の雰圍氣がそこはかとなく傳はると共に、三人姉妹に祇園のお母さんの女心をよく描き切つてゐるものだと感心した。それに、東夷には女性の京言葉に滅法弱いし、讀後の心地よい餘韻が樂しめる。今度上洛するのは何時だらう。

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2012年12月28日 (金)

ルソー

 年賀状を書き終へてゐないのに、讀書が止まらなかつた。本日で營業はお仕舞ひなので、休憩時間に書き上げねばなるまい。

 昨日、讀破したのは原田ハマ 『楽園のカンヴァス』 新潮社。美術ミステリーと云ふ分野があるか知らないが、鑑定を巡る極上小説であつた。

 アカデミズムから離れ、繪畫の近くに居られるからと、大原美術館の監視員をしてゐる織繪に、紐育のメトロ美術館キュレーターのティムからルソーの《夢》を日本に貸し出すには、オリエ・ハヤカワが企劃交渉に來ることと指定され、館長以下上役が驚いて、一介の監視員だと思はれてゐた織繪にお願ひすることから物語は始まる。

 二人の出會ひは、1983年にバーゼルの謎の蒐集家に鑑定を頼まれたことが發端だ。一週間、毎日一章づつ與へられた本を讀み、最終的にこのルソーの繪が本物か贋作が判定を下して欲しいと依頼される。然も、勝者にその繪の権利は譲られると云ふ。未だに評價の定まらないルソーの繪に隠された秘密、美術業界の裏の世界、手に汗握る展開にあっと云ふ間に讀み切つてしまつた。

 あちこちに散りば填められた挿話や、主人公の態度に愛情を感じるのだ。ほんたうに繪が好きな人だと解る。視線がとても温かい。學藝員の端くれとしては心温まる物語にほっとさせられた。

 唯一殘念なのは、バーゼルのレストランでご馳走になる時、ラインガウの年代ものワインを選んだことが疑問。蒐集家主人に長く仕へた獨逸系の辯護士のご馳走なのだから、バーデンのヴァイスブルグンダー、或ひはグラウブルグンダーを選ばせるべきであつた。そこで、ラインガウにすると云ふことは、普段から地元のワインを飲まず、銘柄だけに拘つた紳士氣取りの嫌な奴になる。あっ、さうか、そこまで狙って書いてゐたのかも知れない…。

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2012年12月27日 (木)

盗難繪畫

 京都國立近代美術館で1968(昭和43)年に開かれた「ロートレック展」で一枚の繪が盗まれ、時効成立後に出て來た「マルセル」。新聞記者であつた父の取材ノーとに導かれて、千晶は謎の解明と自身の出生の秘密を探るため、東京から京都、神戸、巴里へと飛ぶ。實在の未解決事件を主題にして描かれた 高樹のぶ子 『マルセル』 毎日新聞社を讀了。昨年一年間、新聞小説として書かれた作品だが、43年前の記憶を蘇らせ、まわりの人々を困惑させ、彼氏ができ、尋ね歩く京都の地形、東京は團子坂のアパート、巴里のサンジェルマン・デュプレの界隈… 情景が目に浮かび、ハラハラドキドキさせられ、大膽な解釈にも舌を巻いた。細かいことを書くとネタバレになるので止めるが、美術ファンでなくてもお勸めの一冊!

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2012年12月22日 (土)

猶太

 お蔭樣で今週一週間ずっと忙しく、休憩時間に出歩くこともせず、店の準備に追はれてゐる。けふが終はると連休故、一息附けるか。

 さて、一體、猶太(ユダヤ)人とは何なのか、何故、歐州で迫害され續けて來たのか、日本人には今ひとつ捉へどころのない不思議な差別問題だ。内田 樹 『私家版・ユダヤ文化論』 文春新書 を讀んだが、彼獨自の解釈だから「私家版」だとわざわざ斷つてある。併し乍ら、さすがの内田さんでも何かすっきりと落ちない説明であつた。

 御師レヴィナスの言葉や哲學者の引用も多いが、どうも言葉遊びのやうでストンと入つて來ない。東歐系アシュケナージと中東系スファラディが居ることは知ってゐるが、だから何だと云はれてしまふと反論できない。宗教團體と安易に括る譯にもいかず、世界を支配してゐるとも考へ難いし、映畫や放送、或ひはコムピューター業界のやうに、枠組みに融け込めないので新分野を切り開いて來たのはよくわかる。

 どんなに迫害されても決して改宗はせず、複雑な要因が數千年以上絡み合つてゐるからには、簡單には和解もないであらうし、問題山積みだけれども、割と部外者の日本人が孰れにも肩入れせずに間に入つて物事を進められるやうな氣はして來た。

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