2014年1月24日 (金)

アバド

 指揮者クラウディオ・アバドが亡くなった。かなり衝撃を受けました。昨年、ルツェルン音樂祭管との來日を心待ちにしてゐたが、病欠の報に一抹の不安を抱かされ、その後、特に報道もなく安堵してゐたからだ。

 1986年に渡獨して、現地のフィルハーモニー(ホール)で最初に伯林フィルを聽いたのがアバドであり、一番數多く聽いた筈だ。その伯林フィルとの來日公演では1994年のマーラーの9番、また、2000年の《トリスタンとイゾルデ》が決して忘れられない演奏であつた。その他、マーラーの2番もよかったが、實に悲しい。ひとつの時代の終はりを告げたと云へよう。

 ブルックナーの7番2樂章を聽いて、哀悼を捧げたい。

http://www.youtube.com/watch?v=x_IbwlSXHpQ

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2011年11月 1日 (火)

名指揮者

 伯林フィルで指揮者フルトヴェングラーの薫陶を受けた演奏者はこぞって賛美するものの、カラヤン時代になつてから入團した人はフルトヴェングラーの良さを認めつつも、カラヤン賛美をする。最近讀んだ 川口マーン惠美 『証言・フルトヴェングラーかカラヤンか』 新潮選書 はなかなか面白かつた。引退した演奏者に面接取材をした記録なのだが、それぞれの思ひ入れが違ふ。また、同じ俎上に載せること自體が可笑しいと云ふ人もあり、どんな指揮者にでも合はせて最高の演奏をすればよいと言ひ放つ人もあり、それぞれ違ふのがいい。

 そして、伯林フィルの帳簿や演奏記録から迫つたミーシャ・アスター 『第三帝国のオーケストラ』 早川書房 では、フルトヴェングラーの今までとはまた違つた側面が見えて來る。ヒトラー政権が成立した1933年當時の伯林フィルは民間團體としては破産寸前で國家社會主義獨逸勞働者黨(ナチス)の援助なくしてはもう財政的に成り立たず、率先してフルトヴェングラーも関與したことや、國家の威信を背負ふ管絃樂團となつてからは、融通は利かないものの、多くの利便性を得て、團員たちは高い給與も貰ひ、戰上にも行かず、特権的な地位が約束され、演奏に邁進することができた。ナチス高官たちは、伯林フィルを獨逸音樂とナチスの海外普及に利用し、また國内に於いてはイベントの度に演奏させたことに改めて驚かされた。その上、戰後は1945年5月26日には、いち早く演奏會を再開。強(したた)かなマネージャーの手腕にも脱帽するが、帳簿の數値や統計資料から随分と解る事實があることも理解した。

 今月の來日は生憎行けないのだが、伯林フィルの過去を知らずして今は聽けない。



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 今月の週末は日比谷公會堂の公演も埋まつてをり、カフェは搬入口にも當たり、蓄音機コンサートは開けないとのこと。至極殘念。

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2011年7月 8日 (金)

紙箱

Box_2 舊盤を最新デジタル技術で再編輯(リマスター)したと聞くと、つひ触手が動く。この21枚組箱入りCDはフルトヴェングラーがEMIに録音したほぼ網羅してをり、以前のCDと聞き比べたくなつた。これはもともと、日本からの要請でSACDを作る際の二次的な産物なのだが、それでも格安で好い音が手に入るとなると嬉しい。然も、この中には《トリスタンとイゾルデ》全曲も入つてるのだ。

 でも、手の間から抜けるやうにワーグナー管絃樂曲が入つてゐないので、こちらはSACDとCDの複合(ハイブリット)盤を買ふことにした。78回轉盤で持つてゐても、聽き流すやうにはできないし、細かい資料も兼ねて、やはり最新版のCDは蒐集家には必要となる。然も、新たに金屬源盤や今まで死藏してゐた録音から初めて商品化されたベートーヴェンの交響曲第7番まである。

Wilhelm Furtwangler: THE GREAT EMI RCORDINGSMusicWilhelm Furtwangler: THE GREAT EMI RCORDINGS

販売元:EMI Classics
発売日:2011/01/17
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 そのCD製作に就いて、製作者自ら語つてゐるのも珍しい。
  製作者談話1
  製作者談話2
  製作者談話3

 何でもフルヴェンものに飛び附く譯ではないが、録音から61年目にして初めて商品化されたと云ふ策にはまりまんまと、この7番は買つてしまつた。よく見たら箱入りの中にも同じ曲はあつたが、こちらは複合盤なので、將來SACDプレイヤーを買ふかも知れないと、一寸無理な理屈を既に考へ出してゐた。それに、まだ、露西亞に戰時中の《トリスタン》全曲原盤が眠つてゐるらしい。

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」&第7番Musicベートーヴェン:交響曲第5番「運命」&第7番

アーティスト:フルトヴェングラー(ヴィルヘルム)
販売元:EMIミュージックジャパン
発売日:2011/01/19
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2010年4月 6日 (火)

インバル

 マーラーの《少年の不思議な角笛》と密接な関係のある交響曲第3番 ニ短調を久し振りにエリアフ・インバル指揮の都響で聽く。アルト獨唱、女性合唱、兒童合唱、舞臺裏にはポストホルン(實際にはトラムペット)、小太鼓、ハープ2臺にタムタムやササラまで必要な上、凡そ98分の長丁場だからか上演の機會も極めて少ない。前回と云ふか初めて聽いたのは、小澤征爾指揮、新日フィルを墨田トリフォニーホールの柿落だった。溜めの少ない、さらりとした小澤の指揮が氣に入らず、感動しなかつたのでよく覺へてゐる。

 何年か前にインバルのマーラーの9番は最前列であつたので、とても疲れたが、今回のサントリーホールは2階席中央の後ろの方なので、全體を見渡せ、音が渾然一體と混ざるので抜群であつた。1986年の5月にフランクフルト響のマーラーの7番の演奏會後、樂屋出待ちをして自筆署名を貰つた時はまだ細かったインバルも、一時の超ふとっちょから、ややスマートになって、指揮の輕快感が戻つて來た感じ。74歳、いよいよ巨匠の仲間入りか。

 第一樂章冒頭はアニメ「銀河英雄傳説」の各場面を思ひ出す、華々しくも重厚な音に驚いた。1980年代前半、ベルティーニ時代の都響は下手だけれども、勢ひだけで押し切るやうなオケだったのが、何時の間にか上手になつてゐた。間違ひも少なく、管樂器の息切れしない、頭から最高の音を奏でてくれた。オケ後ろの二階席で歌ふメゾ・ソプラノ、イリス・フェルミリオンの聲も真っ直ぐ届き、深淵な世界へと誘ふ。

 O Mensch!
 Gib acht!
Was spricht, die tiefe Mitternacht?…

 おお人間よ!
 よおく聽け!
 深い真夜中は何を語らずや?…

 この一年間、學藝員資格取得の爲に努力を重ねてこと、新しい友人との出逢ひ、色々なことが走馬燈のやうに巡り、締め括りに相應しい壮大な繪物語を見た。ゆったり目のテムポに怯まず、果敢に挑戰した都響に拍手を送らう。ホール全體を包むマーラーの響き。世界が鳴ってゐる。心豐かに血湧き肉躍る大昂奮。厚くなる思ひに、眞ッ直ぐ歸へること能はず、友人とシャンパンの杯を空ける。至福の時間をありがたう。


 

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2009年6月22日 (月)

アルマ

Sh アルミンク指揮、新日フィルをサントリーホールで聽く。マーラーの交響曲第9番の前に、妻アルマの作曲した歌曲《夜の光》が洋琴伴奏によりソプラノが舞臺裏で演奏される。師ツェムリンスキイの影響か、ウィーンの後期浪漫派から無調へ繋がる微妙な立ち位置が曲にも現れ、死を意識した9番に繋がって行く。

 事前に指揮者自ら解説を行つてをり、聽衆に寄り添った演奏會に好感を持つ。テムポ解釈の違ひはあるものの、第一樂章トラムペットのソリで音を外した以外、おおむね事故もなく無事終了。久し振りの生オケで聽くマーラーに感歎。

 但し、樂章の終はりは1分以上静寂が續いたのは立派であつた。併し、聽衆のマナーの惡さに辟易。1階平戸間B席、最後列の1列前の所爲ではあるまいが、演奏中にパリパリ音を立てて飴をしゃぶる。目の前のおばさんは背中に荷物を入れて、前屈みになつてゐるので指揮者が全く見えないばかりか、始終動くので、氣が散り最惡であつた。途中、注意しそびれた自分がいけないのかも知れないが、酷い。折角の演奏が臺無しであつたのが殘念でならない。

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2008年12月15日 (月)

板興し

 1948年3月、戰後初めて倫敦を訪れたフルトヴェングラーはキングズウェイ・ホールに於いて、倫敦・フィルを指揮し、デッカ社に録音を殘してゐます。ところが巨匠はカルーショーの設置した目障りなマイクロフォンを氣に入らず、全部撤去させた爲、デッカらしい音像が録れず演奏自體も餘り評價されてゐませんでした。

 たまたま、學生の折りに演奏したことがある爲、好きな曲のひとつでこのSP盤AK1875/79を3組持つてゐることから貸し出したものが、平林さんの手で新しくCDになりました。協會の板興しには78回轉盤をだいぶ貸して、立派なCDになつてゐますが、如何せん市販されてゐませんので、GRNAD SLAMさんの復刻を樂しみにしてゐました。

 さて、このブラ2は蓄音機で聽く分には、巨匠らしい盛り上がりがあり決して侮れない演奏です。以前、デッカの鐵針でHMV194を通した演奏をステレオで録音したことがありますが、CDではこれとはまた違ふ音像が樂しめます。勿論、針の摩擦音はあるにしても、60年前の豐かな響きが和ませてくれますね♪

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2007年12月10日 (月)

オフ會

 先週の土曜日の夜、kna-parcのオフ會がありました。私も所屬してゐる、指揮者ハンス・クナッパーツブッシュを中心とした話題を提供し合ふメーリング・リスト「kna-parc」の仲間、17名が集まり、蓄音機の音を堪能しました。主催者syuzoさんがわざわざ大阪から足を伸ばして下さり、ワインを片手に、遅くまでワーグナーものを中心に針の種類も替えて、色々試しました。驚いたことに、今まで最高だと思つてゐたPegasus mediumよりも、HMV Loudeの方が音が大きいだけでなく、廣がりもあり、迫力も加はり俄然良いのです。最上位はTelefunkenの鈍色に光る鉛筆型のものです。印度産のHMVは未開封品でしたが、缶からして粗惡品で、開けると中の黒紙も厚く、針は不良品が多くて吃驚でした。テレビ塔のやうに、針先途中に圓形に廣がりがあるものは、とてつもなくどでかい音ですが、品がありませんでした。まだまだ、知らない針が山程あるのですね。因みに土曜日は終電を逃してしまひました。
 それにしも、こんなに多くの方にベルランは愛されてゐたのだと、感慨一入でした。

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2007年10月11日 (木)

バイロイトの第九

 今夏、フルトヴェングラー・センターがバイエルン放送協會で發掘した1951(昭和26)年7月29日のバイロイト音樂祭でのベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調《合唱附》の實況録音のコムパクト・ディスクがなかなかいい味はひです。今まであの髭文字のEMI盤が世紀の名盤と長らく云はれて來ましたが、どうも不自然なところがあるとずっと言はれて來ました。それが今回、編輯者ウォルター・レッグの手の入らない、化粧を施してゐない放送用テープが見附かり、センターがCD化したものです。非營利團體なので一般販賣はしてゐませんが、興味のある方はこれを機に會員になるのも手かも知れません。

 EMI盤に慣れ親しんでゐるのでそちらがいいと云ふ人も居ますし、途中どでかい咳も入るのが氣になる人も居るでせうが、實況録音らしい自然な盛り上がりが良く、當時の空氣や息遣ひを感じます。實況録音をそのままレコードにするのを良しとしない時代ですから、それぞれ違ひを認識して樂しめるので面白さも倍増した感じでせうか。

ベートーヴェン : 交響曲第9番ニ短調op.125 「合唱」Musicベートーヴェン : 交響曲第9番ニ短調op.125 「合唱」


アーティスト:シュワルツコップ(エリザベート),ヘンゲン(エリザベート),エーデルマン(オットー),ホップ(ハンス),バイロイト祝祭合唱団

販売元:EMIミュージック・ジャパン

発売日:2000/06/21
Amazon.co.jpで詳細を確認する

他にも實は山ほど板興しがあり、どれもが決定版を名乘ってゐます。ご本人たちは大真面目なのでせうが、大掛かりな装置で聽く譯ではないので、その違ひを求めて全部聽かうとも思ひません。今回、實況録音盤が出たことで一石を投じたこととなり、マニアの皆さんは最高を求めて論議が續きます。

ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱つき》[バイロイトの第9/第2世代復刻]Musicベートーヴェン:交響曲第9番《合唱つき》[バイロイトの第9/第2世代復刻]


アーティスト:シュヴァルツコップ,ヘンゲン,ホップ,エーデルマン|ベートーヴェン|バイロイト祝祭管弦楽団/シュヴァルツコップ/ヘンゲン/ホップ/エーデルマン

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2007年7月 3日 (火)

新額

Fw 澁谷の宮益坂に老舗の額縁屋が在ります。幼稚園の頃、此処の最上階にあるお繪かき教室に通つてました。何を描いたとか、全然記憶になくて、描けば褒められ、何か忠告して貰ひ描き足したりしたやうな感じでした。その後、中學の頃、選擇授業だか、美術の時間だか、畫材を買ひに行つたら、けんもほろろ、とりつく島もない感じで、邪險に扱はれたのがショックでした。單に判らないので訊いただけなのに、まるで莫迦にした感じで非常に頭に來て以來、足を踏み入れたことは決してありませんでした。ところが先月、前を通り掛かったら、破格の値段で額が賣られてゐたので、すぐ購入。
 それに合ふ寫眞を探して、贔屓の額装屋へ。最初は昨日のワルターを入れるつもりでしたが、どうにも小さ過ぎるので、それでフルトヴェングラーに落ち着きました。白黒寫眞でも灰色ぽいもの、遠景であつたり、黒い背景であつたり、色々です。幾つも置いてみて、やっとこれに決めました。1953年4月14日と裏書きのある、所謂生寫眞です。燕尾服を着てゐるので、本番當日の豫行練習であつたのかも知れません。惜しむらくはやや焦點がぼけてること。いざ、シャッターを切ろうと思つたところで、突然速度が變はり動いちゃったのか。資料を探ると伯林フィルの本番の日。4月12日と同じ演目で、ベートーヴェンの交響曲第8番、リヒャルト・シュトラウスの《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な惡戯》、そしてベートーヴェンの交響曲第7番と云ふプログラム。寫眞から表情は判りません。險しさうな感じですけれども、どんな顔して振つたのでせう。
 

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2007年7月 2日 (月)

額装

Walter 以前、指揮者や演奏家の直筆署名入寫眞を蒐集してゐることを書きましたが、中には署名のない只の繪葉書もあります。そのまま置いてをくのも勿體ないので、額装してみました。丁度、土曜日に樂劇《ワルキューレ》第2幕全曲を掛けるので、ブルーノ・ワルターです。裏にはBruno Walter 1938(昭和13)年ザルツブルクと鉛筆書きがあり、たぶん買つた持ち主が書き入れたものでせう。印刷で確か1936と入つてゐたので、撮影は2年前の筈です。
 伯林のシャルロッテンブルク市立歌劇場(現ドイチェ・オパー)で1920年代活躍したので、ベルランに飾つても違和感はありません。小さい寫眞葉書なので、額装屋に適當にお願ひしたところ、小振りの額に臺紙も小さく品よく纏めてくれました。柱にぶら下げるとやや小さいです。ですので、誰も氣に留めませんが、横向きに灰色の背廣と云ひ、佳い雰圍氣です。

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