マーラーの《少年の不思議な角笛》と密接な関係のある交響曲第3番 ニ短調を久し振りにエリアフ・インバル指揮の都響で聽く。アルト獨唱、女性合唱、兒童合唱、舞臺裏にはポストホルン(實際にはトラムペット)、小太鼓、ハープ2臺にタムタムやササラまで必要な上、凡そ98分の長丁場だからか上演の機會も極めて少ない。前回と云ふか初めて聽いたのは、小澤征爾指揮、新日フィルを墨田トリフォニーホールの柿落だった。溜めの少ない、さらりとした小澤の指揮が氣に入らず、感動しなかつたのでよく覺へてゐる。
何年か前にインバルのマーラーの9番は最前列であつたので、とても疲れたが、今回のサントリーホールは2階席中央の後ろの方なので、全體を見渡せ、音が渾然一體と混ざるので抜群であつた。1986年の5月にフランクフルト響のマーラーの7番の演奏會後、樂屋出待ちをして自筆署名を貰つた時はまだ細かったインバルも、一時の超ふとっちょから、ややスマートになって、指揮の輕快感が戻つて來た感じ。74歳、いよいよ巨匠の仲間入りか。
第一樂章冒頭はアニメ「銀河英雄傳説」の各場面を思ひ出す、華々しくも重厚な音に驚いた。1980年代前半、ベルティーニ時代の都響は下手だけれども、勢ひだけで押し切るやうなオケだったのが、何時の間にか上手になつてゐた。間違ひも少なく、管樂器の息切れしない、頭から最高の音を奏でてくれた。オケ後ろの二階席で歌ふメゾ・ソプラノ、イリス・フェルミリオンの聲も真っ直ぐ届き、深淵な世界へと誘ふ。
O Mensch!
Gib acht!
Was spricht, die tiefe Mitternacht?…
おお人間よ!
よおく聽け!
深い真夜中は何を語らずや?…
この一年間、學藝員資格取得の爲に努力を重ねてこと、新しい友人との出逢ひ、色々なことが走馬燈のやうに巡り、締め括りに相應しい壮大な繪物語を見た。ゆったり目のテムポに怯まず、果敢に挑戰した都響に拍手を送らう。ホール全體を包むマーラーの響き。世界が鳴ってゐる。心豐かに血湧き肉躍る大昂奮。厚くなる思ひに、眞ッ直ぐ歸へること能はず、友人とシャンパンの杯を空ける。至福の時間をありがたう。
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